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夢幻と現実の狭間で…  作者: 魔死吐?
魔道具編
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母の願い

魔法学校に通う間の六年間。それがカチュアとマリアが離れ離れになっていた時間である。生まれてから半分の時間を共に過ごせなかったのだ。長期休暇などの時には帰ってきていたが、それでもカチュアの成長を直接見ることができなかったのは親として淋しいものだった。それだけ長い時間を離れて暮らしても、卒業すれば帰ってきてくれると信じていたマリアだが、カチュアは実家に帰らずに現実世界へ行ってしまった。二週間という短い期間とはいえ、卒業後に一度もカチュアは顔を出さずに行ってしまったのだ。

だからこそ、わずか二週間とはいえ、行動を共にしていたケリィの方が、長い時間離れて暮らしているマリアよりもカチュアについて知っているかもしれないと考えたのだ。親として正直妬ましく思わないこともないが、なんにしてもカチュアの考えを知りたかった。

「ただ、これは単なる推測でしかありませんが、メイザース嬢は少々思い込みの強いタイプの人間です。それに、どうも新型魔法具に対して良い印象をお持ちでないようだ。恐らくは過激か消極的にかまではわかりませんが、何らかの行動には出るでしょう」

 それはケリィがカチュアと行動してきたから考え出した推測だった。カチュアが何らかの行動にでる。これは間違いないとケリィは簡単に予測ができた。ケリィが予測できたことを実の親であるマリアが予想できない筈がないとも考えている。カチュアがこれからどうするか聞いてきたのだ。頭で理解していなくても直観で理解しているのだろう。それを頭で理解してもらうためにケリィはそう口にしたのだ。

「たしかに、そうでしょうね。カチュアは何かしらの行動に出てしまうでしょう。何をするかまではわかりません。それでも、きっとこの子の正義に従って行動してしまう。それが私には不安で仕方がないのです」

 調べるだけなら問題はないだろう。製作者に妨害されるかもしれないが、その程度ならケリィが傍に居れば対処できる問題だ。しかし、もし調べた資料から問題が出てきてしまったらどうなるのか? カチュアは恐らく国中にそのことを公開し、新型魔法具の所持を禁止してもらうように行動してしまう。そうなっては製作者の恨みを買い、さらには資質の乏しい者から怒りを買ってしまう。

 資質に乏しい者からすれば新型魔法具は夢の道具だ。自分たちのハンデ/を覆し、資質ある者と同等以上に渡り合えるのだ。そんな彼等からすれば、たとえ、カチュアがどれだけ正論を話し、訴えかけようとも、資質のある者が自らの優位性を守るために新型魔法具を廃止しようとしているとしか考えられないのだろう。その場合、カチュアは心に深い傷を負うことになる。

「ケリィ・ブラックモアさん。貴方にお願いがあります」

「はっ」

思考を巡らせていたケリィは突然発せられたマリアの凛とした声に顔を上げる。そこには子を憂う母の顔だけでなく、貴族の顔をしたマリアが真剣な表情でケリィを見つめていた。

「本来なら貴方に頼むのは見当違いでしょう。ですが、今の私には他に頼れる者は居ません。どうか、カチュアのことを守っていただけないでしょうか」

 その願いはケリィにとってもありがたかった。本来はカチュアをメイザース家に送り届ければ切れてしまう関係である。それをカチュアの母親であるマリア直々に頼まれたのだ。自主的に協力するよりもやりやすくなる。

「わかりました。私のような非才の者がどれだけメイザース嬢のお役に立てるかわかりませんが、ご協力させていただきます」

そう言ってケリィは頭を下げる。そんなケリィの姿にマリアは口元を緩める。

「ありがとうございます。ブラックモアさん。私もできうる限りの情報を集めてみます。何分、夫に内緒でのことになるので、公開されている情報以上のものは手に入らないかもしれませんが」

そう、マリアは夫であり、カチュアの父であるメイザース家現当主ケイネス・メイザースには内密にことに当たろうとしていた。それはケイネスが親馬鹿であり、貴族の当主だからだ。

ケイネスはカチュアのことを溺愛している。可愛い愛娘であり第一子。愛する妻によく似た自慢の娘である。次期当主の弟より可愛がっているくらいだ。そして同時に他家にいずれ嫁に出す大事な政略道具としても見ていた。

政略結婚とまでは言わないが、メイザース家よりも格下の家に嫁がせるつもりはなく、メイザース家と同等かそれ以上の家に嫁げばメイザース家の地位は安泰であると考えているのだ。

カチュアが危険な行動に出ようとすれば、ケイネスは本人の意思を無視して閉じ込めてしまうことは想像するまでも無かった。

愛する夫でもカチュアの自由意思を封じ込め、成長の機会を奪うような真似をマリアは許そうと思わない。だから、見つかるまでの間は内緒で行動させようと考えていた。どうせケイネスを説得しようとしても聞く耳を持たないだろう。そういうところはカチュアとよく似ている。だから、余計な足枷にならないように内密で行動させるのだ。

「それではよろしくお願いします」

「えぇ、では明日また来ます」

玄関先でケリィを見送りながら、マリアは思わずため息をついてしまった。思わず巻き込んでしまったが、他人を巻き込むのは心苦しかった。カチュアには不思議な魅力がある。求心力とも言っていい。

カチュアと付き合いのある人間は不思議とカチュアに引き寄せられ、人間的な魅力に魅了されるのだ。もしカチュアが男として生まれていれば、メイザース家はカチュアが継ぎ、そのカリスマ性からメイザース家はもっと大きくなっていただろうとマリアは考えている。

カチュアをつれてきたケリィを見たときに、マリアはカチュアに魅かれていると見抜いていた。だからそれを利用してケリィをカチュアの護衛につけたのだ。

悪いとは考えている。しかし、娘のためなら罵られ様とかまわない。

「どうか、カチュアをお守りください」

マリアは暗くなってきた外の窓に向かって手を組み、祈りをささげた。


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