メイザース邸
メイザース邸に到着するまでカチュアは目を覚まさなかった。
「そうですか、ザイード兄様が」
現在、ケリィはメイザース家の客室にてカチュアの母、マリア・メイザースと向き合って座っていた。ケリィが今まで見たこともない高級品のソファーに柔らかい絨毯。高級そうな調度品で飾られた部屋にケリィは居心地悪くしている。
本来、ケリィはカチュアを送り届け、これまでの経緯を口頭で説明し、カチュアにもし自分の力が必要なら連絡するよう伝言を頼んで帰る予定だった。しかし、執事長に説明と伝言を頼んだその時、マリアが現れて客室に通された。それからカチュアが目を覚ますまで居るように頼まれ、その間に、カチュアの現実世界での様子を話すことになった。
マリアは従兄であるザイードが生きていたことに驚いていた。元々ザイードは自分の仕事と研究を優先し、家から出た人間である。親族会に招待されているが、カチュアが生まれる数年前からまったく出席しなくなっていた。そのため、親族の間では亡くなったのではないかと噂されており、確かめようにも連絡先を告げずに引っ越していたため、足取りも掴めなくなっていた。そのため、マリアもザイードは亡くなっていると考えていた。しかし、今回の一件でザイードが生きていたことをマリアはとても喜んでいた。娘の成長に加えて、幼少期に兄のように慕っていたザイードの生存は吉報である。
「それで、カチュアはこれからどうすると?」
ただ、マリアは心配だった。向う見ずな所があり、思い込んだら一直線な所のあるカチュアの行動だ。現実世界に行くことになったとき、マリアは眩暈がする思いだった。昔から現実世界に憬れていたのは知っていた。しかし、まさか主席卒業し、願いを使ってまで行くなんて想像もしていなかった。そんなカチュアだからこそ、新型魔法具を悪だと決めつけて何か危ないことをしでかすのではないかと心配でならなかった。
事実、カチュアは新型魔法具に対して良い印象を持っていない。悪かどうかまでは考えていないが、その力の源が何であるかを見定めようとは考えていた。しかし、そのことを、マリアが知りたい情報をケリィは持っていなかった。
「申し訳ない、ご母堂。そのことは私もまだ聞いておらぬゆえ」
「そう…ですか。」
マリアはケリィの言葉に思わず落胆してしまった。話し合う前にミキヨミをしてしまい、ザイードに催眠魔法をかけて貰ったのだ。ケリィがカチャアの考えを知るはずがない。仕方ないことだとしても落胆してしまったのは親としては仕方のない心情だろう。




