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夢幻と現実の狭間で…  作者: 魔死吐?
魔道具編
22/45

ザイード

「おや、ブラックモアくんじゃないか。今、帰ったところかね」

呆然としていると一人の中年男性が声をかけてきた。どうやらケリィの知り合いのようである。黄緑色の髪に同色の髭を生やした男性で、白いシャツに黒のオーバーオールを来た男性で、手には白い軍手がはめられている。

「これは、ザイードさん。えぇ、後は彼女を家に送っていくだけです」

「ほぉ、こんな幼い子が現実世界に。それは珍しい」

ザイードと呼ばれた男は言いながらカチャアの顔を覗き込む。思わずカチュアは目をそらしてしまったが仕方がないだろう。ザイードの覗き方は視線に慣れていない者には不快に思わせてしまうものである。こんな近距離でマジマジと見られた経験のないカチュアには視線を逸らすなという方が無茶だろう。

「おっと、これは失礼、ぶしつけでしたな。ワシの名はザイード。ザイード・ギラジンスーだ。この街でゲートを管理する仕事をしている」

カチュアが視線を逸らしたことに気が付き、ザイードは謝りつつ自分の名を伝えることから始めた。何事においても相手を知り、自分を知ってもらうことから人間関係が始まるというのがザイードの考えだ。その考えにから、まずは笑顔で事後紹介をする。

「カチュア・メイザースです。えっと、魔法学校を卒業したばかりの新米魔法使いですがよろしくお願いしまう」

礼儀には礼儀をもって対応する。お爺様から教わったその教えを胸に、カチュアも返事を返す。

「ほぉ、メイザース。これは懐かしい名をこんな所で聞くことになるとはな。ワシも歳をとるはずだな」

メイザース家は大魔法使いに連なる家として有名な家系である。その名を知るものは数多い。しかし懐かしいというほど古くから知られているわけではない。お爺様が大魔法使いになったのもカチュアの両親が結婚する数年前くらいである。確かにもう十五年以上も昔だから懐かしいという言い方も間違ってはいない。しかし、言い方が気になった。まるでしばらく会っていない友人を懐かしむような言い方のようにカチュアは感じた。

改めてザイードを見ると三十代後半ほどだろうか。お爺様の知り合いにしては若すぎる。お父様より少し年上程度だろうか。本当に何者なのだろう。カチュアは悟られないようにザイードに警戒する。

「あぁ、誤解させてしまったようだね。ワシはバルバット家に縁のある者でね。君の母君が結婚して以来だから、つい懐かしくてね」

バルバット家。それはカチュアの母親であるマリア・メイザースの実家である。なるほど、確かにそれなら納得のいく話だとカチュアは思った。

「ワシは君の母君の従兄に当たるものだ。あまり親族会に顔を出さずに研究ばかりしておるから覚えがないだろうがね」

 親族会。それは上流家庭の魔法使いたちが年に一回行う行事だ。魔法使いたちは研究に明け暮れて引きこもりがちになる者が多い。特に金銭的に余裕のある上流家庭の魔法使いたちなどは特にそういう傾向にある。しかし親族同士のつながりは大切にしなくてはならないという考えから、親族と顔を合わせ、互いの健康と研究の日々を祝い会う日、親族会が生まれた。強制参加ではないが殆どの魔法使いが自分の生存報告も兼ねて出席する。それなのにカチュアに見覚えの無いということは、カチュアの物心がついてから一度も顔を出していないということだ。それにはカチュアは驚かずにいられなかった。魔法使いの死因で圧倒的に多いのが実験中の事故や孤独死である。それは孤独死してしまったと想われても不思議ではない状態なのだ。そこまで研究に没頭するなんて異常だとすら思えた。


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