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夢幻と現実の狭間で…  作者: 魔死吐?
現実世界編
19/45

迷子


カチュアは現在困っていた。ケリィとはぐれてしまったのだ。

『たまには違う街を見て回るのも良いだろう』

そんなケリィの言葉で電車に乗って別の駅に降りたのだが、人の波に流されてしまいはぐれてしまった。今はベンチに座って忙しなくうごめく人の波を見つめながらケリィを探してした。

「はぁ、手を繋いで歩いてればよかったのかな」

あくまでカチュアは迷子対策にそう呟いたが、全身黒ずくめの大男と小学生程度の少女が手を繋いで歩く。傍目から見れば誘拐現場に見えなくもないだろう。親子程度の年齢差があるわけではない。ケリィは二十八歳だと言っていた。そもそも外見から似ていないので危険である。

「まさか迷子になるなんて、まったくブラックモアさんは」

カチュアは迷子になったのは自分ではなくケリィだと考えている。それはあながち間違いではない。ケリィは案内役であるのと同時に護衛だ。そんな人物が護衛対象を見失言う。それは迷子でなくてなんなのか。カチュア自身にも責任はあるが、ケリィの過失の方が大きいと言える。そもそもケリィが言い出したことなのだから。

「君、こんな所で何してるの?」

暫くボーっと眺めていると、カチュアと同い年くらいの少年が傍に立っていた。

「え、えっと。ちょっと人を待ってるんだよ」

「人を? そっか、こんな所でぼんやりしてたから、てっきり迷子かと思っちゃったよ」

思わずムッとなってしまった。決してカチュアは迷子ではない。自分は迷子を捜す側の立場だと主張したかったが。傍目から見れば自分の方が迷子に見られることは否定しきれない。現実世界では護衛が居るなんてフィクションの世界の中かテレビの向こう側でしかないことなので、言っても信じてもらえないだろうし、案内役にしてはケリィの外見では信じて貰えないだろう。

ケリィが何故、黒ずくめの恰好をしているか聞いたことがあったが、彼が言うにはこの格好になってからあまり他人に見られなくなったからだと言っていた。それ以前は褐色の肌をした、見るからに外国人が町を案内する姿が珍しかったのか、よく注目を受けていたそうだしかし、実際に案内を受けているカチュアは気が付いていた。注目をされていないのではなく、目をそらされているのだと。黒ずくめの恰好をした人物は夢幻世界にも大勢居たが、現実世界ではめったに居ないのだと今まで回った場所の人々を見て気が付いている。ケリィのような黒ずくめの人間はだれも居なかった。何故、目をそらされるかまではわからなかったが、あきらかに警戒されている事だけはわかった。

そんなケリィを案内役として紹介するのもどうかと思う程度にカチュアは現実世界の常識を理解していた。

「う、うん、迷子なわけがないよ」

「そう? ならいいや。じゃぁボクは行くよ。あ、もしホントは迷子だったら駅員さんに案内してもらいなよ。じゃぁ、またね」

 そう言って少年は人の波の中へと入っていく。あんな所によく入っていけるものだ、とカチュアは思った。それにしても最後までカチュアのことを迷子扱いしていったことに苛立ちを隠せないでいた。たしかにカチュアは幼く見えるうえに外国人のような容姿をしている。実際には異世界人だ。そんな少女が一人でポツンと座っていたら迷子に見えるのは仕方ないとカチュアも理解している。それでも理解はしても納得できないのがカチュアの心情だった。

「それにしても不思議な雰囲気の男の子だったな」

あまり腹を立てても仕方がないと頭を切り替えると、出てきたのはそんな感想だった。青い髪に赤い眼という現実世界では珍しい。ひょっとすると夢幻世界でも珍しい容姿をしていた。夢幻世界では赤い眼は神の血をひく者の証と言われて神聖視されている。現実世界ではどうか知らないが、夢幻世界でそんな人物が出てきたら神の御子として祀り上げられていただろう。また、青い髪色も初めて目にした。空色の髪色なら見たことはあってもあそこまで鮮やかな青ではなかった。あんな容姿で普通に歩いている人が居るなら自分もわざわざ髪の毛を染める必要はなかったのではないだろうか。カチュアは思わず考えてしまう。

「ようやく見つけたぞ。ここに居たかメイザース。やれやれ、移動せずにいてくれて助かったぞ。」

 考え事をしていると、ようやく人の波から脱出したケリィが近づいてきた。

「遅いですよ。おかげで迷子扱いされちゃったじゃないですか」

悪びれることなく近づいてくるケリィに思わずそう返してしまう。

「なに? それはすまなかった。まさかはぐれることになると私も思わなかった。休日にこの駅を利用することがあまりなかったのでな。ここまで人が多いとは予想外だった」

 少し意外そうな顔をしながらケリィはそう謝った。意外なのはカチュアが恥ずかしそうに怒っていることにだ。ケリィから見てカチュアは感情表現が豊富な方だったが、怒っている姿を見たのはここ一週間で今日が初めてだった。それだけ迷子扱いされたのが悔しかったのかとケリィは考える。

カチュア自身は気が付いていないが、実はカチュアは若干ホームシックになっていた。現実世界に憬れてはいたものの、見知らぬ土地であることには変わりない。最初こそは初めて見るモノの数々にはしゃいでいたが、一週間たち、現実世界も夢幻世界も住む人間は変わらないことを知ったことで、落ち着きを取り戻し、故郷を恋しく感じていたのだ。初日に聞いたお爺様からの伝言のことで夢幻世界を心配に思う気持ちもある。そんな中を一応は保護者であるケリィと僅かとはいえ離れ離れになってしまい自制心が外れかけてしまっていたのだ。

「それで今日はどうするんですか?」

「あぁ、実はこの駅の中を案内する予定だったのだが、こうも人が多いとね」

実はカチュアを連れてきた駅はカチュアが来た現実世界の国の首都で最も大きい駅だった。この駅は複雑な構造になっているので初めてだと迷ってしまうことが多い。ケリィも初めて来たときは迷ってしまった記憶がある。何故ケリィはカチュアに首都の駅を見せたかったのか。それは首都の駅がこの国の様々な文化を知るのに最適だからだ。

首都の駅には観光客用の売り場が多数存在する。その中の一つが万国通りだ。ホームまで続く一つの通路にこの国の様々な土地から送られてくるお土産や駅弁がズラッと並んでいるコーナーだ。残り一週間では見て回ることなど、とうてい不可能だが、ここでなら文化について触れながら説明できると考え連れてきたのだ。



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