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夢幻と現実の狭間で…  作者: 魔死吐?
現実世界編
18/45

憧れ


あれから一瞬間、カチュアはケリィと共に現実世界を見て回った。夢幻世界では味わえない料理の数々や、科学技術で造られた未知の機械の数々。遊園地という夢幻世界にはないタイプのテーマパークにも顔を出し、生態系の違いを知るために動物園や植物園なども見て回った。あまりに過密なスケジュールにさすがに疲労の色が出ていたのか、ケリィに今日一日休むようにと言われて、今はベッドに横になっている。

「楽しかったな」

昨日行った映画館を思い出しながらカチュアは呟いた。魔法使いの少年が活躍する冒険譚の映画で、現実世界では使い古された設定だったが、夢幻世界から来たカチュアからすれば想像でしかない魔法についてよくあれだけ設定が作れていると感心する作品だった。

最初は夢幻世界に行ったことがある人間が制作したのではないかとケリィに聞いたが、答えは否だったので驚いてしまった。現実世界は科学を選択した人間だけが居るのかと思ったが、魔法に憬れる人間も居ることをカチュアは知った。映画館を出た後にケリィに連れてこられた漫画図書館では魔法や超能力などの夢幻を題材にした漫画が読み切れないほど置かれていた。全てが同じ設定ではなく、魔法ひとつとっても別々の法則が存在していた。本物の魔法使いであるカチュアから見ても驚くほど緻密な設定もあった。

『なんで、科学があるのに魔法に憬れるんだろう』

思わずケリィの前で呟いてしまったが、ケリィの言葉に納得した。

『隣の芝生は青く感じるモノだ。自分にないモノを羨ましがるのは人間の心理だ。夢幻世界でも現実世界でもそれは変わらない。お前が現実世界に来たがっていた理由にも通ずるのではないか?』

 なるほどと思った。カチュアが夢幻世界に来たがっていた理由。資質に関係なく平等に生活できる環境が羨ましいと思ったのだ。隣の芝生は青いということなのだろう。

 自分にないモノを欲することが人間の心理。だからカチュアは嫉妬されてきたのだ。夢幻世界でも類まれなる素質に恵まれ、大魔法使いの孫である自分は確かに他の大多数の魔法使いから見れば恵まれており、自分が成り代わりたいと思えるような立場だろう。実際に自分は恵まれている。それにカチュアの家はそれなりに古くから続く伝統のある家系で家がそもそもお金持ちと言える貴族だ。

家督を継ぐのは男子という決まりのある古い仕来りを守る家なので、次期党首は四年前に生まれたカチュアの弟である。さすがに許嫁を決めてそこに嫁に行けと政略結婚させられることはないが、いつかは家を出て結婚しなくてはならないと考えてはいる。

 そんな家にたぐいまれなる素質を持って生まれたカチュアは妬みの対象として申し分ないだろう。魔法学校では魔法の成績や素質からクラス分けがされていたので、カチュアには劣るものの高い素質と力を持った見習い魔法使いと生活を共にしていたため、あまり妬みの対象にはされなかったが、下のクラスの生徒からクラス全体が妬まれていたのは言うまでもないだろう。直接聞いた話ではないが、いじめのようなことも起こったらしい。

 だからカチュアは科学によって素質に関係なく生活できる現実世界に来たいと思ったのだ。そのことをケリィに言ってみたらため息をつかれた。

『いいか、メイザース。どこでも人間の本質は一緒だ。夢幻世界だけが特別なわけではない。現実世界にも才能の差は存在する。夢幻世界ほど目に見えた差ではないがな。頭のよさ、運動神経の良さ、容姿。上げればきりがないがな。人間は平等に生まれないのは現実世界でも変わらないのだ』

頭脳、運動神経、容姿。たしかにそれは夢幻世界でも差がある。カチュア自身運動神経が良い方とはいえないし、容姿も……うん、まぁ、顔は悪くないかもしれないけど発育が少々残念ではある。下のクラスの子でも驚くほど発育の良い子や、運動神経だけで上のクラスの子に勝る子も居た。カチュアより素質が低くても頭の良さだけで上のクラスに入れた子も居る。その子たちを妬ましいと思う気持ちがカチュアに無かったかと聞かれれば否定できない。夢幻の力を第一に考える夢幻世界ではあるが、夢幻の力に関係ない嫉妬も存在した。

そう考えると夢幻の力がないだけ、そういった方面に嫉妬が行きやすいのかもしれない。もしかしたら現実世界も平等というわけではないのかもしれない。

『君が何を聞いたかは知らないが、現実世界は夢の国ではない。いや、むしろ夢幻世界よりよほどシビアな世界だ。全てが法則に従って動いており、細かくルールが定められている。大人になれば社会の歯車として働かなくてはならない。身分の差がなく、平等に働く機会が与えられるが、逆に働かなくては食べていけなくなるということだ。君たち魔法使いのように家で研究に明け暮れるだけの生活はまず送れないだろう』

夢は夢でしかないと痛感した言葉だった。

『まぁ、しかし、現実世界には現実世界で良いところが勿論ある。君が今まで見てきたような科学や遊戯などは夢幻世界より発展している。残り一週間。後半は現実世界の文化を見て回るとしよう』

そう言った時のケリィのバツの悪そうな顔にカチュアは思わず笑ってしまった。正直、現実世界に憬れていただけにケリィの言葉は辛かった。夢を見すぎていたのは確かに自分だが、長年憬れていただけに思わず落ち込んでしまっていたのだ。

しかし、夢の世界でないことがわかっても未知の世界であることには変わりはないとカチュアは考えた。恐らくもう二度と来られないだろう現実世界での経験をこれからの人生の糧にできるように学んで帰ろうと。じっくりは読めなかったが、漫画に出てくる魔法は創作とはいえ参考になるし、機械の仕組みを知れば魔法具作りに何かの役に立つかもしれない。そう思うと決してこの旅行は悪くないと思った。夢は壊れたが、けっしてマイナスにはしない。そんな決意をカチュアは持った。



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