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身替わり人形

この部屋は鉄格子があるだけで他には何もない部屋だった。まるでお城の牢獄のようだとカチュアは思う。

カチュア自身は優等生であり、問題行動も起こしていないため人伝手に聞いただけだが、部屋の特徴から考えるに、この部屋が生徒を閉じ込める反省室なのだと分かった。

姿隠しの魔法を維持しながら、足音を立てないように鉄格子に近寄る。鉄格子には防音の魔法がかけられているが、向こうからは教師の説教が聞こえるようにとこちらの音が聞こえるため、万が一見つからないように注意し様子をうかがうと、緑の髪をした少年、リック・ダイソンが膝を抱えながら座っていた。

「リック!」

カチュアは思わず姿隠しの魔法を解いて鉄格子に駆け寄る。何で彼がこんなところに。そんな疑問ばかりが頭の中を駆け巡る。

「――――」

リックもカチュアに気が付き、慌てて声をかけるが、防音の魔法に阻まれてカチュアの耳には届かない。唯一伝わる身振り手振りで、カチュアに出ていくように伝えようとするが、それも通じなかった。

「どうすれば」

 こちらから何かを話すだけならまだしも、向こうからの反応がわからなくては意味がない。リカードとグレンの話ではリックが悪さをしたわけではないことなので、最終手段をとることにした。

「リック、うけとって」

カチュアはそういってポケットに圧縮魔法で小さくしてしまっていた人形を取り出してリックに投げ渡す。人形は綺麗な放物線を描き、リックの腕の中に納まると、ボンッという音と共にリックと同じ大きさの人形へと変わった。

「いい、リック。その人形は身代わり人形と言って持ち主と人形の立ち位置を入れ替えることができるの。その子は未契約なの。だから血液を垂らすことで持ち主になることができるようになっているからその子と契約してもう一度こっち側に投げて」

カチュアの考えは契約した人形をこちら側に戻して、入れ替わらせるという簡単なものだった。過去に反省室を脱出しようとした生徒も居たが、曲がりなりにも魔法学校の教師が造りだした反省室である。簡単に出られないように結界魔法が張られているため。学生のレベルでは突破できないだろうレベルの結界魔法を難しい脱出魔法を組み立て破ろうとするが、扱いに失敗して誤爆するという失敗談がある。だからこそ逆に単純な行動が成功を導き出した。

実はこの結界魔法は転移系の魔法には対応していても身代わり系の魔法には対応していなかった。

転移はそのまま空間Aから空間Bに移動する魔法であるが、AとBの間に魔法で通路のようなモノを作って移動している。通路と言っても入口から出口まで一瞬のため、門という考え方もある。今回は通路で説明するが、反省室にある結界魔法は通路を通行止めにするための魔法である。そのため、転移魔法は軒並み防がれ失敗してしまった。

身代わりは物体Aと物体Bを置き換える魔法である。今回の場合はリックと身代わり人形がその役割を果たした。転移同様に移動しているが、AとBの間に通路ではなくラインがあるという違いがある。ラインとはAとBを繋げる紐のようなモノであり、通路よりも細く頑丈である。結界の隙間を縫うようにラインは繋がっているため、いつでも置き換えを可能にしている。その結果、簡単にリックを脱出させることができたのだった。



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