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二人の会話


ボールはカチュアの歩幅にあわせるように動いており、カチュアを置いてきそうになるとゆっくりになる、反対にカチュアが追いつきそうになるとスピードを上げる。すでに三つの穴から出ていた声は消えており、ただただ石造りの通路を転がっていく。

カチュア自身、地下室には入ったことは無かった為、物珍しそうにあたりを見渡しながらも置いていかれないように後を追う。地下室と表記しているが、まるで迷路のような造りをしており、初めて訪れればまず間違いなく迷子になってしまうだろうと思いながら、帰りをどうしよう、早まったかもしれない、と不安を覚え始めた。

ちょっとした探検気分から学校内での遭難とはシャレにならない。風で聞いた噂では、学校の地下室は昔、学校に何かあった時の抜け道として作られたものであるということらしい。そのため、侵入者を迷わす迷路にもなっており、先生以外には正しい道順が教えられていないということだ。カチュアはこの噂はあながち間違いではないと考えている。迷路を改造して反省室を造り、道具を置くようになって今の形になったのかもしれない。

そんな考察をしていると、突然、ボールは一つの部屋の前に差し掛かる直前で動きを止めると、溶けるように崩れて地面に吸い込まれていった。おそらくボールは役割を終えて魔力へと戻ったのだろう。何故ならその部屋だけ明かりがついており、外に光が漏れていたからだ。カチュアはボールを作った何者かがこの部屋に案内したくて先ほどのボールを作ったと判断する。そうしてゆっくりと入口から中の様子をうかがう。

部屋の中では二人の男が言い合いをし、その向こう側に鉄格子が見える。よく見ると鉄格子の向こう側にも誰かが居るようだった。鉄格子の向こう側には明かりが届かないのか、暗くてよく見えなかったが、言い合いをしている人物二人は大人と子どもほどの身長差があり、両方ともカチュアのよく知る人物だった。グレン・ハートフィリアとリカード・テイラー。魔法学校の教師と卒業生が何故こんな所で言い争いを? 疑問に思ったが口に出さず、様子をうかがうことに決める。

「彼を閉じ込めるなんて何を考えているんですか」

「仕方がないでしょう、彼には聞かれてしまった。秘密を知られたからには野放しにはできませんよ。それは君も分かっているはずです」

「でもっ。あ、貴方ならわざわざ捕まえなくても記憶を操作すればどうとでもなるじゃないですか、わざわざ捕まえておく方が不利益な筈です」

「なるほど、そういうことですか。ならば答えましょう。別に彼をどうこうするつもりが今は無いだけです。今はデリケートな時期なので、彼の記憶を弄って周囲に怪しまれるような行動をされては困るので逆に隠しているのです。君ならこの意味がわかりますね?」

「…記憶を弄って周りに不思議がられるよりも、失踪の方なら証拠が出にくいということですね」

「えぇ、そうです。いやぁ、物わかりの良い生徒を持てて私は幸せですね」

「……」

「では、そろそろ時間なので行きましょう。何、ずっと彼を閉じ込めてはいません、我々の願いが成就されれば解放しますよ。それに彼に危害を加えるつもりも死なせるつもりもありません。彼も私の可愛い生徒ですからね」

「…そうですね」

はっきり言って会話の内容が理解できなかった。あの優しいリカードが生徒を監禁しているなんて信じられなかった。会話の内容から生徒の誰かに秘密を知られ、その生徒を監禁していることはわかった。しかし、なんであの二人が。もしかしてグレンの様子がおかしかったのもこれが原因なのかもしれない。

ぐるぐると頭の中を謎が渦巻く。その時、グレンがこちらを見たような気がしてカチュアは慌てて頭をひっこめ、このままではグレンもリカードも出てくると気が付き、姿隠しの魔法を小声で唱えた。姿隠しの魔法はその名の通りに透明になる魔法なので、匂いや気配は勿論、触られてしまったらその瞬間に見つかってしまう。だからカチュアはその場に身をかがめて息をひそめた。

「それでこの後…」

「…ですね。なら…」

幸いなことに、魔法の発動が間に合い、先生であるリカードにも気づかれることなくその場をやり過ごせた。遠くに二人の姿が見えなくなってからカチュアはようやく立ち上がり、部屋の中に入る。

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