プロローグ
この世界は大きな木ユグドラシルに支えられたツリーハウスのようなものだということを、子供のころから教えられてきた。
私たちの暮らす夢幻世界と、その隣に存在する現実世界。元々は一つの世界だった二つの世界は、私たちは夢幻を、現実世界は『カガク』を追い求めることで二つに分かれてしまったらしい。
『カガク』というモノを私はよく知らない。お爺様が言うには私たちの使う夢幻の力とは異なり、個人の資質に関係なく、知識さえあれば誰でも平等に使える技術らしい。それは素晴らしいことだと思う。
誰でも平等に使えるなら資質による差別は生まれないだろうし、皆が安定した生活ができるのだから。
でも、私たちの世界には『カガク』は存在しない。かわりに夢幻の力と呼ばれる法則を使って生活している。魔法、超能力、霊能力、気功、呼び方は幾らでもあるけれど、それらの超常の力を総じて私たちは夢幻の力と呼んでいる。
お爺様は『カガク』は夢幻の力ほど万能ではないと言っていた。夢幻の力は『カガク』では説明できない現象をたやすく発生させられる。だけど、それは万能ではあっても平等ではない。
私は魔法使いの家系の生まれだ。魔法を使うには魔力と呼ばれるエネルギーを消費する。しかし、一人の魔法使いが使える魔力の量は個々人で違いが出る。私なんか比べ物にならない程の大魔法使いと呼ばれたお爺様。彼の扱える魔力の量は実は見習い魔法使いである私の半分程度でしかない。それなのにお爺様が大魔法使いなのに対して私が見習いなのは、私の魔法使いとしての技量が比較にならないほど劣るからだ。それでも扱える魔力の量次第で私はお爺様を超える大魔法使いになれる可能性は残されている。
話がそれてしまったが、扱える魔力の量は生まれた時の資質によって左右される。他の夢幻の力でもそれは言えることだが、生まれた時の資質で生活のレベル、人生が決められるのが夢幻世界だ。
大きな資質を持てばそれに見合った生活ができるし、小さな資質しか持たない者は質素な生活をせざるをえない。この世界に存在する道具も『カガク』と違い平等ではない。魔法使いの使う魔道具は魔力を注がないと使えない。だから、小さな資質しか持たない者は道具にすら頼ることができない。
そんな万能と不平等の夢幻世界で私は一際大きな素質を持って生まれた。生まれてから苦労を経験したこともないし、生活に困ったこともない。そんな私だからこそ現実世界に憬れを抱いてしまった。
大きな資質を持つということは良いことばかりではない。嫉妬や妬みが常に付きまとう環境で生きていかなくてはならない。生まれ持った資質。誰が悪いわけではない、こればかりはどうしようもないことだ。だからこそ私は誰もが平等に生活できる現実世界に憬れた。夢幻世界と現実世界を行き来する方法は存在する。しかし、それには国王様の許可が必要になる。その許可を得るには大変な困難があり、お爺様ですら一度だけ、しかもわずか一週間しか許可されなかったらしい。そのわずか一週間の許可を得るためにお爺様が支払った時間と労力は十年間に及ぶ国家への無償奉仕だったらしい。さすがにそんな事は私にはできないし、私のような見習い魔法使いではどんな対価を支払わなくてはならないのかわからない。
だから私は別の方法を選んだ。私の通っている魔法学校では、上位の成績で卒業した者の願いを何でも叶えてくれるという伝統がある。私はそこに賭けている。「現実世界を見て回る」その願いを叶える。そのために私は魔法学校に入学したのだから。




