★視線の先には
眠さが伝わればOK。
冬は寒いから温室へ。
春は野原の綿毛を見つめ。
夏は涼しい湖に映る森の木々に寄りかかり。
秋は枯れ葉を游がす風の音に目を閉じる。
それは毎年毎年繰り返される私の日常で、何者にも侵されることはない。
優しい陽光に当たり、木々と草花に包まれて眠る。なんて幸せなのだろう。夢うつつに口もとが綻んだ。
――けれども誰だろう。
いつしか私を呼ぶ者が現れた。
眠りを妨げる者。
彼は……名前は覚えていない。他意はなく記憶力の問題で。
私より大きくて、多分今時の男の子の髪型で、いつ見ても同じような服を着ている。眠い頭と目ではそれがどんな人間なのか上手く認識出来ず、ぼんやり思い浮かぶのは顔どころか人物を彩る色彩すら不明な“彼”という代名詞の存在だけ。
…それでも構わないと思った。
私はいつだって日の光を感じながら夢の世界で暮らす。それは変わらない。
彼が傍らで頭を撫でたり語り掛けてきたりするのは煩わしかったけれど――それは無視してしまえば眠れないこともないのだから。
まぁ、いいか。
まどろみながらそう思うようになった。
だけど、ある日気が付いた。
太陽が遠くなったのを感じて、そろそろもっと暖かい昼寝場所に移ろうかと考え始めた頃。全然関係ないのに、彼のことを思い出した。
当たり前のように傍らに腰を下ろしていた、顔形は想像出来ない人物を。そういえば最近眠りを邪魔されることがなくなったことを。
記憶を振り返る。
右か左かそれとも目の前? 確認したことはなくとも、1人しゃべり続ける彼は確かに自分のすぐ側にいた。話は聞いていなかったけれど、その気配はずっと感じ、いつの間にか覚えていた。
それなのにどうしてだろう。
久しぶりに重い瞼を上げて、光を浴びる葉っぱに見とれる。
もう随分涼しくなったものの、まだ葉っぱには夏の名残があった。だんだんこの緑も赤や黄色、果ては茶色に染まるのだろう。
ぼんやり眠い目を擦りながら、しばしの別れと見納める。
私の周りにはたくさんの木々といっぱいの緑。少し目線を変えれば小さな湖が映る。
一方、人は見当たらない。いつも私の眠りを妨げていた者はどこへ行ったのだろう。
首を傾げて、それでも草むらを歩きだした。
次は冬まで中庭で寝よう、と移動先を決めた。何しろあそこはオーリモールで一番暖かい寝所なのだから。
寒くなったら、例年のごとく親しい動物達に抱き枕になってもらおう。
それから――。
それから、冬が来る頃にまた誰かの声が聞こえてくるのかもしれない。何がしたいのか、一方的に私の眠りを妨げるために。
私を呼ぶ声。
貴方は誰なのかしら。
終わり
友人数名とやってるリレー小説のキャラ(まだ未登場)の庭師。『オーリモール』は物語の舞台。
つまり番外編なのですが、まだキャラが登場もしていないため、向こうでの公開もできないことからネタ扱いしてます。
また、この場で本編のネタバレはできない(←なにせ本編もこのキャラ出るまで進んでいないので)ため、説明不足な文章なのは申し訳ないです。
本編が進んだら、補足的な番外編を追加したいと思います。