1.電車が参ります
時は22世紀
人類は新たな実験をいくつも繰り返していた。
そのうちの一つが「感情の制御」であった。
当然、実験の末に失敗は起こった。
-以下、政府によるレポート-
科学者イトーによる実験の結果、
100人以上に深刻な精神異常が確認された。
実験の生存者は僅か23名。
現在は全員を保護下に置いている。
この実験の影響か、ごく稀に都内で
感情の制御の失敗による弊害が起こった。
それは極めて危険なものであり、
制御をすることはできなかった。
我々はその現象を「残響」と命名した。
西暦2105年1月26日
…
西暦2112年1月26日
東京は何事も無かったかのように動いている。
駅のホームに一人佇んでいる少年がいる。
「伊東響」
十七歳。
混み合う駅を、
まるで遠くを見つめるかのような目で見つめていた。
彼の耳には、いつも耳鳴りが鳴っていた。
気にせず彼は歩き出す。
「電車が参ります。」
彼を待つ人間はいない。
七年前に両親は失踪して、今では噂すら聞かない。
「電車が参ります。」
それでも同じ一日を繰り返す。
それが日常だった。
「電車が参ります」
今日この日までは。
「電車っがっ、まままま参ります。」
「電車が……参り参り参り参り……
お願い…もう……来ないでぇぇぇ!!!!」
響は足を止めた。
明らかな異常である。
駅員達が驚き、子供が泣き叫ぶ。
耳鳴りが強くなった気がした。
少し頭痛がする。
だが、響は電車に乗ろうとした。
もう、辛い思いをするのは懲り懲りだ。
だが電車のドアは開かなかった。
「もう………来ないでぇぇえ!!!」
悲痛な叫びが聞こえる。
気が付けば彼は歩き出していた。
「こっちだ。」
なにか聞こえた。
耳鳴りのようであったがはっきりと分かる。
言葉であった。
少しずつ、耳鳴りも強くなっていく。
スピーカーから悲鳴が出る度、
耳鳴りも強く聞こえた。
「もう……行きたく…………」
響にはわかった。
これは感情だ。
辛い毎日の中で生まれた、
同じ日々を繰り返すことへの拒絶。
それがスピーカーから流れ出ていた。
自然と足が響をスピーカーまで導いた。
しかし、彼は平然と通り過ぎた。
だが一言だけ呟いた。
「拒んでも、明日は来るんだ。」
そして、ドアの前に戻って行った。
「電車……り……」
「電車が……り…す」
「電車が……参ります。」
「電車が参ります。」
たった数分の出来事であったが、
その放送は多くの人の足を一瞬止めた。
電車が止まっても、
日は必ず上って沈む。
それでも人々は、今日も電車を待っている。
ドアが開いた。
1人の少年も、また電車に乗るのだった。




