第9話 転校生
「転校生を紹介するぞ」
僕たちが2年になった初日、いきなりのイベント発生だ。
1年から引き続き僕たちを担任する大谷先生に促されて入ってきたのは……。
「綾瀬美月です。よろしくお願いします」
クラスがざわつく(主に男子だけど)。
ミディアムショートの黒い髪、ぱっちりした瞳、たわわな胸。
アイドルだと言われたら納得してしまうほどの美人だ。
なんかどこかで見たことがあるような……?
僕の疑問をよそに、大谷先生の話は続く。
「美月は都内の藤堂高校の芸能コースから転入してきた。かなり勉強ができるぞ、高校一年最後の実力テストを受けてもらったが、ほぼ満点だった。悠真、健人、強力なライバルだな!」
ほへー、すごいな。
藤堂高校の芸能コースといえば、数多の芸能人、アイドルなんかを輩出しているので有名な高校だ。
すでにどこかのプロダクションに所属している子も多い。
言ってしまえば勉強はそこまで求められないはずなんだけど、わざわざそんなところから進学校である鳳翔学園に転校してくるなんて、実力は折り紙つきなんだろうな。
さっき大谷先生が強力なライバル出現と言っていたが、僕にはそんなつもりはなくて、誰かに勝つつもりで勉強しているわけじゃないんだ。
ただ、学んだことを無にしたくないってだけなんだよ。
『これだから無自覚無双チートは……悠真、それ絶対に俺以外に言うなよ、クラスメイトに刺されるぞ』
と親友の健人に言われたんだよな。
ふと美月さんを見てみると、潤んだ目で僕を見ている……というのはうぬぼれが過ぎるかな。
でも、美月さんはずっと僕から目を離していないようだ。
いったん視線を外してまた美月さんを見ると、すぐに目が合うんだ。
そんなことを何度か繰り返した。
僕の隣の健人は、『すげー美人が入ってきたな、さすが藤堂高校』と言いながら見入っていた。
陽菜はというと、僕の前の少し離れた席なので、どんな反応をしているかはわからない。
「というわけで転入生の美月の紹介は終わりだ。美月の席は、お、ちょうど悠真の隣が空いているな。じゃあそこで決まりだ。みんな、仲良くしろよ」
「はーい」
◇◇◇
「お、おい、誰か美月さんに声をかけろよ」
「ちょっと美人すぎるというか……」
「なによ男子たち、鼻の下伸ばして!」
「つーか、美月さんグラビアアイドルの愛崎詩織に似てない? 胸も大きいし」
「女の子を胸でしか見てないの⁉︎ サイテーね!」
など休み時間のクラスが騒がしい。
当の美月さんはというと、笑顔を振りまいているが、特に自分から動くこともなく、じっと僕のほうを見ている。
グラビアアイドルの愛崎詩織といえば、男子高校生なら知らない奴がいないほどの人気だ。
清楚系グラビアアイドルで売り出している。
僕も知っているが、確かに美月さんは詩織に似ているな。
確か、所属は大手の810プロダクションだったと思う。
いや、今をときめくグラビアアイドルがこんな進学校に来ないだろ。
他人の空似じゃないか?
そう思って美月さんを見ると、にっこり笑みを返してくれた。
なんだかドキドキするな。
そして頬をつねられた。
「ゆぅぅまぁぁ、なーにニヤついてんのよ!」
「いてててて! ごめんってば、ニヤついてないし」
「あんた、自分の顔を鏡で見てみなさいよ」
そうして僕の頬をつねった陽菜が、いつもポケットに入れている手鏡を僕に向けてくる。
キリッとした僕の顔が映っている……はずだ。
少し童顔で年齢より低く見られがちだけども。
その様子を見ていた美月さんがクスッと笑った。
「悠真くん、陽菜さんと仲いいのね、もしかして……」
「そうそう、あたしと悠真は一年前から付き合ってるのよ。もし狙っていたら諦めなさいよね! あげないからね」
「ふふっ」
陽菜の言葉に直接は答えず、曖昧に笑う美月さん。
「あらためて陽菜さん、よろしくね」
「ええ、こちらこそよろしく、美月さん。あんた、あのグラビアアイドルの詩織によく似てるわね」
「よく言われるの、それ」
二人の間で見えない火花がバチバチ散ってそう。
ああ、こういうときは割り込まないほうがいいな。
黙っていよう。
「その胸だとさぞやモテるでしょうね。誰かともう付き合ってるんじゃないの?」
「いえ、今は誰とも付き合ってないよ」
おおー、と男子のテンションと歓声が上がる。
「ねえ、聞いた男子たち? チャンスなんじゃないの? 男ならグイグイ行きなさいよ。あのたわわな胸を揉み放題よ」
「陽菜、それはいくらなんでも……」
なんでか陽菜が男子を煽っている。
そんなに美月さんと誰かをくっつけたいのかな?
さすがにちょっとアレなので一応陽菜をたしなめる。
「なに、悠真もこの子のデカパイ揉みたいの?」
やべっ、矛先がこっちを向いちゃった。
黙っておこうと思ったばかりだったのに、余計なこと言わなきゃよかった。
当の美月さんはというと、言い返さずニコニコしている。
が、僕にはわかる。
あの顔は表面だけ取り繕っている感じだ。
ときどき陽菜も作ったような笑顔をするときがあるからね。
うーん、怖い。
けど、わかるのはそこまでで、内心は怒っているのか、受け流すほど余裕があるのか、とかはわからない。
ここで次の時間のチャイムが鳴って、陽菜と美月さんの対決はおしまいとなった。
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