第54話 一方その頃
学園を自主退学した小畑小春の家に出向いた陽菜の父。
詫びと称して金を積み、学園への復帰を約束したが(本当はできない)、当の小春は学園への復帰を望まず、両親も同じで金を受け取らなかった。
小春が美月を突き飛ばしたことについては、美月が警察に寛大な措置を望んだため不起訴となった。
その小春を唆した陽菜については、美月が『小春に任せる』と言い、小春は陽菜の処分を望んだ。
学園で悠真を切りつけた件については、悠真が大したことなかった、と述べたためそれは事件化されなかった。
だが、美月を襲わせようとした件についてだけは、美月は許すつもりはなかった。
◇◇◇
「なぜ被害届を取り下げない!」
ほとんど客のいない時間帯のファミレス。
陽菜の父は美月を呼び出していた。
「許しません」
陽菜の父からあれこれ言われるが、美月はまともに取り合わなかった。
「金ならあるぞ!」
「私もグラビアの稼ぎがあります。だから要りません」
「くっ……。私の娘が刑務所に行くかもしれないんだぞっ!」
「それ、私に関係あります?」
「お前も子どもを持てばわかる」
「ならどうして子どもをちゃんと育てなかったんですか? 男をけしかけて女を襲わせるような子に育てたのはあなたの責任なんじゃないんですか?」
「うるさい、示談に応じなければどうなるか、わかってるんだろうな!」
はあ、とため息をつく美月。
そこへとある人物がやってきた。
「どうなるか、教えてもらいましょうか。まったく、いい年した大人が二十歳にもならない女の子を恫喝するとか、恥ずかしくないのかしら」
「百合さん、どうしてここに?」
やってきたのは、腰まで長い黒髪のアラサーの女。
後ろには強面の黒服二人を従えている。
「美月ちゃんの姿が見えたからまた何か変なナンパにでも遭ってるのかしら、と思って来てみたんだけど、ちょっと訳ありのようね」
「なんだ貴様は! 部外者なら出て行け!」
「私は、この子が所属するプロダクションの社長、藤堂百合ですわ」
そういって百合が名刺を差し出した。一応受け取る陽菜の父。
「ならば部外者ではないか」
「いいえ、私がスカウトした大事な大事な社員ですわ。美月ちゃんのご両親にはかなわないけれど、我が子のように思っていますの。美月ちゃんになにかするというなら、プロダクションの総力をもって美月ちゃんを守ります。私たちの相手をする覚悟はおありですか?」
穏やかに微笑む810プロ社長の百合。
後ろの黒服二人も無表情で佇んでいるが、陽菜の父は底知れぬ圧を感じた。
生き馬の目を抜く芸能界でしたたかに生きてきた女社長と、祖父から受け継いだ財産にあぐらをかいていただけの陽菜の父では、格が違った。
「ふ、ふん。今日はこれくらいにしておいてやる!」
捨て台詞を吐いてファミレスから出て行く陽菜の父。
美月と百合たちはそれを見逃した。
あんな小物、まともに相手するだけ無駄だ、とわかっていたからだ。
「あ、百合さん、あの人会計せずに出て行っちゃいましたね」
「器の小さい男みたいだし、どうでもいいんじゃない? お腹すいたわ、私もここで食べていきます」
大手プロダクションの社長と、国民的グラドルがファミレスで食事を取るという珍しい光景だが、ファミレスの店員は最後まで気がつかなかった。
◇◇◇
「よう新入り、お前初めてかここは? 力抜けよ」
「ひえっ!」
龍也は未成年であったが、犯した罪が重大であったため、成年と同じく刑事裁判にかけられ、有罪となった。
刑務所で歓迎を受ける龍也。
「おうおう、若いのがきたじゃねーか。なにやらかしたんだ?」
「あ、えーと……」
「おら、はっきりしゃべれよ!」
自分よりも年上で凶悪な人相をした者たちの前に、龍也は萎縮した。
そして、今までの自分のイキリっぷりが、いかに中途半端だったのかを肌で感じた。
「その……オヤジ狩りと女を襲おうとしました」
「人間の屑じゃねーか、俺らも人のこと言えねえけどさ、ハッハッハッ!」
「ははは……」
「おい、ここは笑うところだろ! まったく最近の若いモンは中途半端でいけねえ。じゃあ、みんなで歓迎してやるとすっか」
「先輩方、いったい何を……」
「歓迎、って言っただろ。これからたっぷり可愛がってやるからな、メスイキって知ってっか?」
「知りません……」
「じゃあ今から俺たちが教えてやる」
「ひいいっ!」
後ずさる龍也。
だがすぐ壁に背がついた。
「おい、しゃぶれよ」
迫る男たちに囲まれる龍也。
「い、いやです……アッーーーーーー!」
龍也の悲鳴が部屋に響き渡った。
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