第53話 暗躍してた根岸くん
「鬼塚先輩の取り巻きがデジカメを落としていったんだ。それを拾ったら根岸のだった」
あっ……。
なんとなく察したけど、一応聞いておこう。
「ああ、なんとなく読めたよ」
「そこで俺は当然根岸を呼び出した。美月さんもいっしょにね」
◇◇◇
『拙者、鬼塚先輩に脅されていたんでござる! 美月さんに告白して振られたことを言いふらされたくなければ言うことを聞けと。それで……』
ちょっと気まずかったのか、根岸は美月から顔を逸らし、健人だけを意識するようにした。
それに応えるように、健人が続きを催促する。
『それで?』
『拙者は鬼塚先輩に呼ばれ、スマホの操作を教えろ、スマホの起動が遅くなったのを何とかしろ、とかいろいろ世話をさせられたでござる。一番ひどかったのは、裏サイトに動画を投稿して稼いでこいと言われたことでござる』
『何を投稿させられたんだ?』
『その……内緒にするでござるよ、内容をバラしたらぶっ殺すと鬼塚先輩に脅されているゆえ』
『もちろんだ』
『私もよ。絶対内緒にしてあげるから』
『美月殿……。その内容は、鬼塚先輩と、鳳翔氏の……NTRビデオレターでござる。動画の日付を見たら、鳳翔氏が悠真殿とお付き合いする宣言をしたその日でござった』
『マジかよ……。予想の遙か斜め上が出てきたぞ』
『…………許せない。私だったらそんなこと絶対しないのに!』
『美月殿……顔が怖いでござる。そのような顔をフォロワー1000万人のアイドルがしてはいけないでござる』
『美月さん、顔を戻して』
『うん、わかった』
般若のような顔からいつもの笑顔モードに戻る美月。
『……。その動画のデータを鬼塚先輩から渡されて裏サイトに登録して、鬼塚先輩の口座を投げ銭先に登録させられたでござる』
『ハメ撮り画像で金を儲けようとか、とんでもねー先輩だな。ん、待てよ、っつーことは根岸も悠真が二股されてるのを知ってたってことか』
『最近のことでござるよ! でもこんなこと悠真殿に言えるわけもなく、拙者は悠真殿の顔を見るたび悩んでいたでござる』
『そんなことが……。鬼塚先輩はひどい人ね。脅されていた根岸くんはやっぱり悪くないよ。私が保証してあげる』
『そうか、お前も辛かったんだな、根岸。話してくれてありがとう。それに、気づいてやれなくてごめんな』
◇◇◇
「……ということがあったんだ。そこで動画のことを知った。それでいっしょに聞いてた美月さんもそれはさすがに知らなかったらしくてな、めちゃくちゃキレてたよ。ああ、視線で人を殺せるんだなってくらい」
「ごめん、そこだけは聞かなかったことにするよ」
「ああ、そうしといたほうがいいな。アレはアイドルがしていい顔じゃなかった」
僕の前だといつもニコニコしている美月だけどね。
「それがなければホテルの場面とかだけであの場は終わっていたはずなんだけどな。美月も自力で編集していたらしいが、そこへ根岸が嬉々として追加の編集をして、モニターに映るよう細工した。根岸が一晩でやってくれたよ」
「すごいな、根岸くん。あとでお礼言っとかなきゃ」
◇◇◇
「陽菜、いったいなんてことをしてくれたんだっ!」
「ごめんパパ、こんなことになると思わなくて……」
警察に連れて行かれた陽菜は、警察にしばらく留め置かれ、パーテーションごしに父と面会した。
「あの破廉恥な動画はなんなんだ! おかげで理事長選挙は延期、それどころか次の理事会で私は前回一致で理事を辞職させられたんだぞ!」
次の理事会までの間、理事長としてもみ消してきた案件、鬼塚の不祥事案や、小春のカンニング黙認、さらには適当な理由をでっちあげた悠真の退学処分の準備などが全て明らかにされ、根回しをしてきたはずの他の理事たちもさすがに看過できなかったのだ。
「鳳翔学園は亡くなった私の祖父が始めた事業。私の代で手放すことになるとは、とんだ恥さらしではないか!」
「パパ、あのクズ先輩がいけないのよ、動画を消すって言ったのに、消さないどころか裏サイトに流して収益を得ていたんだから」
「おい、それは初耳だぞ」
「いま思い出したからね」
「まったく、そいつには賠償金をたっぷり請求してやる!」
「当然よね」
「それから、あの小春というやつの証言も取り下げさせよう。金を積めばなんとかなるだろう。あのアイドルもだ! まったく、このバカ娘のためにいったいいくら金がかかるのやら……」
「パパ、早くここから出してよね」
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