第49話 騒動の終わり
「僕も美月のことが好きだ。いまはっきり自覚したよ。こちらこそ、よろしくお願いします」
「ありがとう!」
美月が僕に抱きついてきて、唇が軽く触れる。
えっちのときの濃厚なやつとは違う軽めのキスだ。
「二人は幸せなキスをして終了、でござるな」
実はハピエン厨だったらしい根岸くんがそう言うと、教室で歓声が湧きあがった。
◇◇◇
「なにが『二人は幸せなキスをして終了』よ、この陰キャ童貞妄想メガネ! 全てこの三流アイドルが悪いのよ! 人生を終わらせてやるわっ!」
鳳翔さんがなんか言い出した。
そして、おもむろにふところからカッターナイフを取り出し、美月に向かってくる。
「美月、危ない!」
無茶苦茶にカッターナイフを振り回す鳳翔さん。
その刃が当たらないように僕は美月の前に立った。
カッターナイフの刃が服を裂いて僕の腕を切りつける。
鋭い痛みが走った。
「……っ! 痛っ!」
「大丈夫、悠真くん! 許さないから!」
美月が鳳翔さんを取り押さえる。
素早く鳳翔さんの手首を掴んでひねりあげ、カッターナイフがその手から落ちる。
そのまま美月が鳳翔さんをうつ伏せに押し倒し、拘束した。
「はなせっ、この枕アイドルぅぅぅぅぅ! どうせお前も有名芸能人に抱かれてるんでしょぉぉぉ!」
美月の下で鳳翔さんがジタバタと暴れるが、美月はびくともしなかった。
「私はあなたと違ってそんなことしてません」
そうだね、美月は正真正銘初めてだったのだから。
そこへ、予想もしない人間が入ってきた。
「警察だ、鳳翔陽菜はいるかな? 署までご同行願いたい。が、これはどういう状況かな?」
制服を着た警察官が二人、教室に入ってきた。
教室がざわめく。
あれ、タイミング早すぎない?
「ここにいる陽菜さんが、私に死ねといいながらカッターナイフで切りつけてきました。そこで私を庇った悠真くんが怪我をしています。私がいまその犯人を押さえつけています」
美月のその言葉を聞いて警察官が周りを見ると、クラスメイトがみんなうんうんと首を縦に振った。
「ここにいる者たちが目撃しているということか。現行犯だな。本当は、鬼塚龍也に綾瀬美月を襲うよう唆したと、鬼塚が自白したからその件で来たのだが」
え、何?
そんなことがあったの?
僕は美月の顔を見た。
「ごめんね悠真くん。悠真くんを心配させたくないから黙っていたの。それに私はなんともなかったの」
「そうだ悠真、俺もその場面をたまたま目撃した」
「健人……」
「その一部始終を撮っていた俺は、その暴行未遂の証拠動画を警察に提出していたんだ。いまこのタイミングでくるとは思わなかったけどな」
そう、だったのか。
「道理でこの何日か鬼塚先輩を見なかったのね……」
教室で誰かが呟いた。
美月は取り押さえていた鳳翔さんを警察官に引き渡した。
「ご協力感謝します。さすが、藤堂流柔術師範代のアイドル、見事な拘束っぷりでしたな」
「どういたしまして。たまにこんなことがあるので」
「アイドルも大変ですね。それでは我々はこれで。受理した被害届については後日しかるべき処理がされるかと思います」
「イヤよ、やめて、誰かっ、あたしを助けなさいよっ、悠真、助けてっ!」
警察官に拘束されて連れられて行く鳳翔さんを助ける者は、いなかった。
◇◇◇
静まり返った教室。
「あ、そうだ」
美月が教室を見回した。
「さっきまでの騒動、動画とか撮ってたら消しておいてね。私のいるプロダクション、ちょっと私に過保護なの。810プロダクション、っていうんだけど」
810プロは、所属アイドルたちに対しての暴言や殺害予告などを絶許の方針を取っている。
演技が下手だった、みたい書き込みは問題にしないが、それを飛び越えるような人格否定的な事案などはたとえ一行でも全て開示請求し、きっちりケリをつけさせていて、今のところ負けなし。
日本最強の法務部とも言われ、知っている人間なら絶対に手を出さない。
何人かが、慌ててスマホを操作している。
さらに、美月がよく通る声で喋った。
「教室の外にいる方も同じですよ。くれぐれも気をつけて下さいね」
教室の外にいた野次馬たちも、一斉にスマホを操作しはじめた。
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