第46話 反撃①
生徒にとっては何でもない普通の日。
その昼休みが終わりかけ、僕は健人といっしょに食堂から戻ってきた。
クラスメイトのほとんどももう教室に戻ってきている。
次の授業の準備をしようとしたとき、隣の席の美月がおもむろに席を立ち上がった。
「みんな、聞いてほしいことがあるの」
大きくよく通る声でクラスメイトに語りかける美月。
何事かと全員が美月のほうを見た。
その中には、陽菜もいる。
美月はいつもの笑顔ではなく、真顔だった。
「鳳翔陽菜さんは、鬼塚先輩と二股しています。私は悠真くんが好きです。だから許せません。陽菜さん、今すぐ悠真くんと別れて」
ざわつく教室。
え、ちょっと待って、美月はいきなり何を言い出したの?
みんなの前で。
「マジ? あのなぜか退学にならない成績不良で、素行不良でなんで進学校にいるのかわからない鬼塚龍也先輩と、1年の始まりのころに悠真くんと付き合う宣言してた陽菜さんが二股?」
クラスメイトの女の子の長い説明だ。
助かる。
「おいおい、マジかよ」
「その二人なら悠真一択だろう」
「信じられない……」
「…………」
様々に言い合うクラスメイトたち。
僕もすぐには信じられない。
だけど、陽菜と仲のいい彩由美さんたちが黙っていた。
まさか、彩由美さんたちは知ってたんじゃあ……。
「何を言い出すの美月さん、ヒナがそんなことするわけないじゃない! 証拠はあるの、証拠は?」
ようやく、とってつけたように大声で反論する彩由美さん。
だけど、正直、むなしく聞こえる。
いったい、いつからなんだ。
なんでなんだ。
美月が答えた。
「証拠見たいの? じゃあ見せてあげる。あれを見て」
そう言って美月が顔を向けたのは各教室に一台ずつある大きなモニター。
美月の言葉とともに、モニターに写真が映された。
そこには、黒髪オールバックで制服をいつも着崩している鬼塚先輩と陽菜が腕を組んで歩く姿が、映っていた。
「あれは、どう見ても鬼塚先輩よね。なぜか退学にならない成績不良で、素行不良でなんで進学校にいるのかわからない」
うん、そうだね。
どこからどう見ても、僕に腹パンした鬼塚先輩だね。
「悠真、大丈夫か、顔が青いぞ」
健人が声をかけてくるが、正直それどころじゃないんだ。
「う、うん、大丈夫。ちょっと急なことだから、動揺してるだ、け」
美月を見ると、一瞬だけ申し訳なさそうな顔をしたがすぐ真顔に戻った。
そうして、モニターにはさらに画像が次々と切り替わっていった。
プレゼンのごとく映し出されていく陽菜と鬼塚先輩の画像。
中には動画も混ざっている。
陽菜と鬼塚先輩がキスしているシーンも……。
そんな。
ちょっと強引なところはあったけど、初めての水族館デートは楽しかったし、去年の夏休みにみんなで日帰りの海水浴場に行った夜、僕と陽菜は結ばれた。
去年のバレンタインには僕が欲しかった靴をバイトしてまで買ってくれたじゃないか。
思わずモニターを見ないように下を向いて目をつむった僕に、走馬灯のように浮かんでくる景色。
僕は、死ぬのか?
「キャー」
「マジかよ……」
クラスメイトたちから一際大きな声があがる。
今度は、なんなんだ。
「ここ渋谷のラブホ街だよね?」
おい、僕に聞かせるな。
でも、確かめなきゃ。
顔を上げてモニターを見ると、ホテルに入っていく二人の姿。
その後は、場面が変わって同じホテルから出てくる二人の姿。
もう、決定的だ。
そうだ、陽菜は、どうなんだ。
否定、してくれるよね。
僕は陽菜のほうを見る。
陽菜は全身を震わせて黙っていたけど、やがて口を開いた。
「このエセアイドルに騙されないで、みんな! こんなの合成画像よ。いまどきAIでいくらでもねつ造できるわ! あんた、こんなでっちあげの画像であたしから悠真を取ろうっての⁉ 許さないわよ!」
若干早口に喋る陽菜。
「私が先に好きだったんです、中学のときから。だから、あなたみたいな人に譲れない」
冷静に、だが大きめの声で宣言する美月。
「だからなんなの? 好きの順番なんか関係ないわよ! 先にモノにしたほうの勝ちなんだから! あんなでたらめ画像流して、覚悟しなさいよ! 弁護士をつけて絶対に訴えてやる!」
「そーよそーよ、ヒナに謝りなさいよ!」
彩由美さんも陽菜の味方をしている。
美月が言い返す。
「訴える? 好きにすれば。私が負けたらアイドル辞めてあげる。そのくらいの覚悟ならとっくにできてるの。陽菜さん、ここで悠真くんと別れるなら許してあげたのに、仕方がないから決定的な証拠を見せてあげる」
そしてモニターには映ったのは……。
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