第44話 制圧
「そこまでだ!」
「ん? パイセンの邪魔をしようとするのは誰っすか!」
「あっ、龍也さん、こいつ2年のサッカー部のエースですよ」
体育館の建物の陰から出てきたのは、健人くんだ。
本当にちょうどいいタイミングだったね。
「アイドルを襲おうとした場面はバッチリ撮らせてもらった。お前たちは終わりだ」
そう、こんなこともあろうかと呼び出された体育館の裏に行く前に、健人くんにDM送って万が一に備えてスマホで録画を頼んでいたんだ。
「てめぇ、死にてえのか!? そのスマホをよこしやがれ!」
「いやですね」
健人くんがお断りしている間に、私は起き上がって体勢を整えた。
「くそっ、こうなったらコイツをボコして裸を撮ってやれ! 男の裸なんぞ見たくもねぇが、口封じに使ってやる!」
「そうはさせないよ」
「美月ちゃんはあとでかわいがってやるから待ってろ! いてててててて!」
鬼塚先輩の腕を掴んでひねり上げる。
「そ、そっちには腕は曲がらねえ……いだだだだっ!」
そして軽く胸を押すと鬼塚先輩はあっさりと後ろ向きに倒れた。
「パイセン、大丈夫っすか!」
「くそっ、お前ら二人がかりでコイツを押さえろっ!」
そして左右から私の体を掴みもうと手を伸ばしてくる二人。
「か弱い女の子一人に男二人がかりとか、恥ずかしくないの?」
さっと躱すと二人がぶつかりそうになる。
アホだね。
まあ柔道をやってなければ仕方ないかも。
そして、お互いにぶつかりそうになって動きを止めた二人の腕を掴み、後ろに向かってひねり上げた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
「痛い痛い痛い痛い!」
そして順番に足払いをして、転ばせる。
「ただのアイドルじゃないっすよ! 話が違うっすよ」
「怪力女じゃないっすか、やべぇよ……やべぇよ……」
そう、柔道の師範代だからね。
「そいつ、柔道の達人だぜ。逃げたほうがいいんじゃないか」
あ、ネタばらしが早すぎるよ健人くん。
別にいいけど。
「やべっ、逃げろっ!」
「龍也さん、話が違うから帰るっすね~」
起き上がって脱兎のごとく逃げ去っていく後輩の二人。
「美月さん、逃していいの?」
「いいのよ。だってもう動画に顔がバッチリ映ってるでしょ。しかもちゃんと自己紹介もさせたから。どこへも逃げられないし」
「ちっ、あいつら逃げやがって」
「鬼塚先輩、人望無いんですね」
「ちっ、このアマぁ! 調子に乗りやがって、男の本気を見せてやるっ!」
鬼塚先輩が殴りかかってくる。
が、道場での稽古に比べればなんてことはない。
いつもどおりすっと避けて、無防備になった背中を下に向けて押すだけ。
それだけで簡単に大の男が面白いように転ぶ。
「おわあっ!」
すかさず私は鬼塚先輩の背中を踏んづけて起き上がれないようにする。
「くそがっ! もう容赦しねえからな! 足をどけろっ!」
おかしいわね、これをすると一部の人間は大喜びするんだけど。
水族館で捕まったビームサーベルの人とか。
鬼塚先輩が手足をジタバタする様子も続けて健人くんが撮影している。
ここだけ切り取ったら私が悪役になっちゃうかな?
少し遠くから声が聞こえてきた。
「警備員さん、あっちから大きな物音がしました!」
誰か生徒が放課後に学園を巡回している警備員と喋っているのが聞こえる。
「くそっ、覚えていろよ三流中古アイドルがっ!」
そう言いながら鬼塚先輩が去って行く。
ひどいわね、中古だなんて。
男は中古って言われないのに。
ああ、そういや男がATM扱いされることがあるみたいだから、お互い様かしら。
「俺の出番なかったんだけど、さすが万能アイドル。大の男でもあんなに簡単に転ぶものなんだな」
「コツを掴めば誰でもできるよ」
「それは美月さんだけだと思うよ」
「前も言ったけど、事務所にいろいろ習わされるんだ」
「それでできちゃう美月さんがすごいよ」
「うん、悠真くんのためだからね」
「愛されてんな、あいつ。羨ましいぜ。で、この動画どうするんだ?」
「当然警察行き。あと、事務所にも出すよ」
「あっ……。810プロのほうが怖いんじゃないですかね」
「なんで敬語になったの?」
「美月さんのバックにいる方々が怖いからです。今その辺に黒服とかいたりしませんよね?」
「そんなのいないから! でも『やられたらやり返せ』が社長の信条だから、こわいところがあるかもね」
そういいながら私は笑顔で冗談めかして健人くんに話したつもりだけど、健人くんの顔はひきつったままだった。
ま、別にいいか。
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