第40話 美月の回想①
「どうだった? 悠真くん」
「控えめに言って最高でした」
お互いベッドに座って一休み。
「よかったぁ。じゃあ実績解除、【パ……」
「清純派アイドルがそんなこと言っちゃだめです。1000万人フォロワーに怒られる。そして僕は殺される」
「私これ初めてなんだけど、悠真くんゲームするからわかりやすいかな、って」
その気遣い、さすがアイドル。
ちょっと方向がズレてる気もするけど。
「ていうか、前から思ってたんだけど、なんでそこまでしてくれるの?」
「あ、今それ聞いちゃう? 賢者モードだからなの?」
「また幼気なアイドルからイケない言葉が……」
「あのね、それはね、悠真くんがもう覚えてないかもしれないけど……」
美月は話を聞かないなー。
◇◇◇
中学生のときの美月は、まさにド陰キャ。
人の目が怖いからといって前髪を長くして目を隠し、さらにメガネもかけていた。
いつもおどおどして、友達は少ししかいなかった。
成績も普通で運動も得意じゃない。
そんな彼女の取り柄、というか目立つのはその大きな胸だった。
いつも下着のサイズに苦労するくらいの胸だったが、何より困ったのは男子からのいやらしい視線だった。
学校の男子からはいつも好奇の目で見られる。
『頼むから揉ませてくれよ、一生のお願いだから!』
と全然話したこともない男子が廊下で土下座して、涙をだばだば流しながら頼んできたこともある。
もちろん断った。
そもそも、自分の父親以外の男の人が苦手で、話すことすら怖かった。
ちなみにその男子はその場面を先生に見つかってしこたま怒られ、しかも名前は言われなかったものの、全校集会でやんわりと出来事をバラされ大恥をかいた。
他にも電車の中で、電車の理由でよろめいたフリをして触ってこようとする中年男性もいた。
今の美月なら手をひねり上げて鉄道警察に突き出しているだろうが、当時の美月は気が弱く、必死で避けるのに精一杯。
女性専用車両がなかったら通学できなかったかもしれない。
一番まずかったのは、同じクラスでイケメンの拓也が美月の胸をいつもガン見していたことだった。
拓也に関してだけはいやらしい視線というより、拓也のことが好きな学校カーストトップの女子から目を付けられることのほうが怖かった。
案の定、事実上その女子が仕切っているクラスラインには入れてもらえず、教師からの知らせも教えてもらえない。
そのせいで修学旅行では危うく置いていかれそうになったこともある。
◇◇◇
『このクソ陰キャ、なに拓也に色目使ってたのよ!』
『私、そんな、こと、してない……』
ある日、美月と拓也が同じ日直になったため、そのことで話をしたことがあった。
日直の話をしている最中も拓也は美月の胸をガン見していて、もはや美月の胸と会話をしているくらいだったのだが、それが気に入らなかったらしい。
放課後の教室で囲まれて詰られる。
『私、拓也君と、日直の話しかしてない』
『そんなわけないでしょ! ならどうしてあんなに長く拓也くんと話をしてたのよ』
『…………! もういや!』
『あ、こら逃げたな!』
美月はその場から逃げ出し、トイレの個室に駆け込んだ。
だがトイレまで追いかけきた女子たちは個室のドアを蹴り、掃除箱にあるモップでもドアを叩いて大きな音を出す。
『おらっ、でてこい、陰キャメガネ!』
ゴガキーン! ドッカン! ドッカン!
『…………』
早くいなくなってよ。
そう思いしばらく個室の中で震えていた美月。
やがて音がしなくなったと思ったら、個室の上から冷たい水が降ってきた。
女子たちが個室のドアと天井の隙間にホースを差し込んで水を流したからだ。
『きゃああ、冷たいっ! 止めてよっ!』
『ははっ、いい気味よねっ! ほら、泣け、叫べ、牛チチ陰キャ! あははははっ!』
『ひどいっ……、私が何をしたっていうの……』
『拓也君をその胸で誘惑したからでしょっ! これから毎日水浸しにしてあげようか?』
いつもお読みいただきありがとうございます!




