第34話 一年ぶりの水族館
部活が終わって、部室のシャワーでさっぱりしたあと校舎をでると、スマホにメッセージが入っていた。
『悠真、週末にデートに行かない? 一年ぶりだけど、前にいっしょに行った都営の水族館』
『うん、わかった。でも、どうしたの急に?』
『初心に返るのもいいかなって』
これは、昨日のこと気にしてくれてるのかなって。
いい彼女だ。
『ありがとう、陽菜!』
『気にしないで、あたしは悠真の彼女なんだから』
◇◇◇
そうして久しぶりにうきうきして待っていた土曜日がやってきた。
十時に駅で待ち合わせて、電車で移動して、水族館のあるビルに到着。
二人で手をつないで中に入っていく。
「マンボウ可愛いね」
「そうだね」
去年は確かエイの顔が可愛いね、とか言ってた気がする。
懐かしいなあ。
次に去年もみたタチウオのコーナーに行く。
今年は暗がりでチューしているカップルはいない。
「悠真」
さっきまでの楽しそうな顔から、一転して真顔になって僕を見る陽菜。
「どうしたの、陽菜」
「ちょっと噂で聞いたんだけど、うちのクラスにアイドルもどきがいるでしょ。中学のとき同じクラスだったって?」
は? え? これは探りを入れられてる?
でも美月が自分からバラすなんてありえないし、かなり前に怪しまれてからはお互いに痕跡を残していないはずだ。
ここは、ポーカーフェイスで行こう。
役作りできる自信はないけど、美月にコツでも聞いとけばよかったな。
「ちょっと違うかな。同じ中学校だったけど、クラスは違ったよ。どこで聞いたの、それ?」
「なんか有名なテックトッカーが暴露しててバンされたらしいってアユミから聞いたんだ」
「彩由美さんそういうの好きそうだもんね。ていうかその人は人生まるごとバンされてそうなんだけど。……相手は810プロか、1000万人の美月……さんのフォロワーでしょ。自宅とか襲撃されてたりして」
「こわいよね、ネットって。それでさ、悠真は中学校のときにその子に告白されたりしたの?」
きた。ここが勝負かな。
平静に、落ち着いて。
「その子、っていうか、僕中二の2学期くらいから急に背が伸び始めてさ、そこから告白されることが多くなったんだ。学校の図書委員とか、同じ陸上の部員とか、強気な先輩とか、控えめな後輩とか。全部断っていたけど」
「中学のときから無自覚無双してたのね……。で、なんで告白を断ってたの?」
「別に深い理由はないんだ。女の子が怖かったのかもしれないし、ゲームが楽しかったのもあるだろうし」
「今でも女の子は怖いの?」
「いや、別に。違う意味で怖いとか思うことはあるけど」
強引な告白は女の子の特権! といわんばかりにグイグイやってきた目の前にいる女の子とか、ゆっくりと忍び寄るように誘惑してくるアイドルとかかな。
「そっかぁ……」
そうして陽菜が安心した顔に戻ったそのとき。
「あ、悠真くん!」
「美月? ……美月さん、どうしてここに?」
「えっと、仕事で疲れたときにたまにここに来るんだ。お魚を見てると癒やされるの」
「そうなんだ」
美月が同じ水族館にいた。
神様のいたずらかな?
あーなんか急激に周囲の温度が下がっていく、気がする。
バナナで釘を打てそうなくらい、寒気がするよ。
「ちょっと、悠真!」
「え、あ、ごめん」
「なんであんたがここにいるのよ!」
「こんにちは、陽菜さん。私ときどき休みの日にお魚を見に来るの。で、たまたまクラスメートを見かけたから声をかけようかな、と思って。ほらね、別におかしなことはないでしょ?」
バチバチ、と見えない火花が散ってる気がするんだけど!
あれ、平和な水族館デートはどこいった?
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