第3話 強引な告白
「悠真くん、あたしと付き合って」
サッカー部の助っ人に出た翌日、放課後まだ大勢のクラスメイトが残っているなかでこの発言。
クラス中に聞こえたであろうこの発言の張本人は鳳翔さんで、目を爛々と輝かせて僕を見ている。
その様子だと、罰ゲームとかではなさそうだ。
鳳翔さんの周りには金髪のギャルっぽい女の子が二人いる。
っていうか、告白ってこんなみんなの前で堂々とするものだっけ?
今まで受けた告白は、ひっそりと誰もいないところに呼び出されて、というパターンばっかりだったんだけど。
でも、別に言うことはいつもと変わらないけどね。
「どうなの?」
「いや、付き合うとかまだよくわかんないし……」
「大丈夫だって、始まりはみんなそんなもんだよ、悠真くん。あたしのこと嫌い?」
「別に嫌いじゃないけど」
っていうかそもそもよく知らないし、正直困る。
だけど、鳳翔さんにそんな僕の内心がわかるはずもなく、さらに迫ってくる。
「誰かと付き合ったことある?」
「ないよ」
ここで鳳翔さんの取り巻きの二人が無駄に煽ってきた。
「えーマジ未経験? そんなに顔がいいのに? キャハハハ!」
「未経験が許されるのは、中学生までだよねー、アハハハッ!」
別にいいじゃんそんなこと。
僕のなにを奪いたいんだ。
「何事も経験よ。嫌いじゃないんでしょ、じゃああたしと付き合うってことでいいね、決定! よろしく、悠真!」
えー、好きでもないし嫌いでもないって中間があると思うんだけど。
しかももう呼び捨てだし。
「ちょっと待って鳳翔さん、僕付き合うって言ってないよ」
今までこんなに迫ってくる子はいなかった。
だいたい僕がお断りすると引き下がっていったんだけど。
「そんな他人行儀はやめて、陽菜でいいから! あと、悠真を狙っていた人はもう諦めてね」
陽菜さんがそういうとクラスの女子の何人かが顔を曇らせた。
え、マジで?
まだ入学して全然日が経ってないんだけど、好きとかってそんな簡単に決まるもんなの?
陽菜さんはこれ見よがしに僕と腕を組む。
陽菜さんの友達は『あーおめでとー』『カレピゲットー』とか言って囃したててる。
組んだ腕から柔らかい感触が伝わってくるし、髪からはいい匂いがしてくるし、どうすればいいんだコレ。
思わず健人に目を向けると、戸惑いの表情をしていた。
この件に関して少なくとも健人はグルではないらしい。
んー、告白されたこと自体は別に嫌ではないんだけど、こうなんというか、情緒というか……。
「なんか考えこんでる? 大丈夫? おっぱい揉む?」
「はあっ⁉︎」
陽菜さんが組んでいる腕をさらに密着させてくる。
じゃあお言葉に甘え……ない。
揉みたいかと聞かれると答えは一つに決まってるんだけどさ。
胸はたぶん人並みに大きいだろうけど、カップ数はわからない。
「冗談だよ、なに顔を赤くしてるの? まだ早いよ、残念」
からかわれてるのは分かってるんだけど、みんなの前で言うのやめてほしいな。
「とりまSNS交換ね、早くスマホ出して」
◇◇◇
その日の夜の布団の中で、今日を振り返る。
「彼女もちかあ。あんまり実感湧かないな……」
助っ人で参加したサッカーの試合で悪質タックルされて、そしたら陽菜さんが怒ってくれてたな……。
うん、彼女というのも悪くないかもしれない。
◇◇◇
入学から一週間経って最初の休みの日、僕は都営の水族館に向かっていた。
陽菜さんと水族館前で待ち合わせの約束をしたからだ。
水族館には何度か家族と来たことがあるけど、女の子と二人だけで来るのは初めてだ。
最寄りの駅から降りて、水族館のあるビルまで歩いて行くと、陽菜さんがすでに待っていた。
彼女はスマホをポチポチしていたが、顔を上げてすぐに僕に気がついた。
「ごめん、待たせたね」
「いや、全然待ってないから。じゃあ行こっか」
そして、陽菜さんが僕の左手を握ってきた。
指と指が絡む、あの恋人つなぎだ。
おおう、女の子の手って柔らかいんだな。
なんというか、もちもちしてるよ。
「どうしたの?」
「なんでもないよ」
「女の子と手をつないだのは初めて?」
「うっ、そうだよ……」
「あたしもだから、お互いさまだね。早く見に行こ?」
「うん」
◇◇◇
水族館の中では家族連れや、僕らみたいにカップルで来ている人でいっぱいだった。
「見てみて、エイの顔かわいいね~」
こちらに白い腹を見せながら優雅に泳いでいくエイ。
ちょっと笑っているようにも見えるんだよな。
「タチウオだって、銀色が綺麗だね、悠真」
「うん」
実は食べる方が好きです。
と返すのはなんだか違う気がするので短く返事した後、陽菜さんと並んで縦に連なって浮かぶタチウオを見る。
銀色を映えさせるためか、このコーナーはかなり照明が暗い。
ふとコーナーの片隅を見ると、暗がりでカップルが顔を合わせていた。
女の子が背伸びして彼氏に合わせている。
「悠真、次に行こうよ……って何見てるの?」
「あっ……いやなんでも……」
慌ててカップルから顔をそらすが、陽菜さんもそっちを見た。
「悠真、見ちゃダメだよ。たぶんスタッフが注意に行くだろうし。見ないふりしとこうね。それとも、ああいうことしたい?」
「えっ、あっ、いや……」
「冗談だよ、さっ次いこう」
頷いた僕は、陽菜さんといっしょに次のコーナーに移る。
そのあともジンベエザメやら亀やら見てはしゃいでいる陽菜さんを見て、そのうちキスすることになるのかな、どのタイミングがいいんだろ、どうやって切り出せばいいのか、なんて考えているうちに水族館デートは無事終わった。
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