第28話 美月の策謀
週の半ば、美月の家にて。
「お父さん、お母さん、これで週末に旅行にでも行ってきて。北海道の旭山動物園に行きたい、って言ってたでしょ。白クマ見たいって言ってなかった?」
「美月、そう言ったことはあるが……」
お父さんは私が差し出した旅行パックの搭乗券やらパンフやら一式を見て戸惑った。
「美月、あなたにお金があるのは知っているけど、自分のために使っていいのよ」
お母さんもそれは受け取れないとばかりに言ってきた。
「私たちは美月の親だが、まだ40代だ。その、子どもの金で旅行に行くのはなんというか、まだ早いと思う。もっとあとの話、そう、私たちが仕事を引退してからくらいのことだと思っていたんだが……」
「旅行は体力があるうちに行ったほうがいいよ。それにこれはね、私のためだよ。だってちょっと早いかもだけど、親孝行なんだから」
「美月……」
お父さんが目を潤ませる。
「それに私のお仕事もいつダメになるかわからないの。だってグラビアの世界は厳しい。若いうちしかできないし、次々とライバルが現れる。人気があるうちはいいけど、世間の人は飽きやすいからすぐ次の話題に移る」
「最近はそういう傾向らしいわね」
お母さんがうなずいた。
「事務所の社長はいい人だけど、仕事をほいほいくれるわけじゃない。自分で獲りに行かなきゃいけないの。だから、お金があるのは今のうちだけだよ。だから、お金があるうちに親孝行をしておきたいの」
「美月……そこまで考えているのね」
お母さんも感心しているようだ。
うーん、チョロい。
私は悠真くんを連れ込んでキメたいだけなんだけどね!
「わかった、そういうことなら母さん、旅行を楽しもうじゃないか! そのほうが美月も喜ぶ!」
「まあ父さんったら……相変わらず美月に甘いんだから、仕方がないわね」
「ありがとう、お父さん、お母さん」
よかった、これで計画通りになる。
私がグラビアで稼いでなかったらこの手は使えなかったものね。
◇◇◇
お父さんは最初、私がアイドルになることに反対していた。
決まりかけていた高校への進路を突然私が勝手に断ったからね。
先生にはめちゃくちゃ説得された。
学年主任の男の先生と、副主任の女の先生に進路指導室に呼び出されて何時間も話を聞かされる羽目になった。
『せっかくいい高校に行けそうなんだ、それにギリギリで推薦を断ると次に推薦枠がもらいにくくなる。未来の後輩にすまないと思わないのか?』
と責めるように言ってくる学年主任。
申し訳ないと思いつつ、私はどうしてもグラビアを目指したいと言い張った。
『そんなに芸能界に行きたいの? 美月さん、華やかに見えるかもしれないけどおそらく甘い世界じゃないわよ。夢を見るなとは言わないけど、考え直したほうがいいんじゃないかしら』
副主任は、私のことを気遣うような感じで、やはり引き留めにきた。
甘い世界じゃない、なんてことは今どきネットで調べればわかる。
実体験をしているわけじゃないけど、一世を風靡したあとのアイドルがどうなったか。
男女を問わず、そのまま順調にいった人もいれば、犯罪者にまで堕ちる人もいる。
けれど、そんな程度で私の悠真くんへの思いが揺らぐわけはない。
絶対に悠真くんが好きだといったグラビアアイドルに、私はなる!
◇◇◇
長時間の説教が終わった後、結局無理やり保留にされた。
なら、次の手だ。
私は進路指導室の鍵をこっそり拝借して、書類を探す。
お目当ての書類はすぐに見つかった。私が手にした推薦枠を争った人に譲ればいいと思ったからだ。
私の次に成績がよかった女の子は、私と同じ陰キャ寄りの女の子だった。
全然話したことなかったけど、話は聞いてくれて、もしかしたら譲るってことにプライドを傷つけるかも、と思ったけど、
『これで受験勉強しなくてよくなる……ホントにいいの美月ちゃん?』
と言いながらうれしそうにしていた。
もし相手が陽キャだったら私は詰んでたかもしれない。
いや、むしろ受験勉強しなくてよくなるから陽キャのほうが引き受けてくれる確率高かったかもしんないけど。
そして、その子に『推薦を諦めることができない、どうしてもその高校に行きたい』と学年主任に言ってもらって、無事私の推薦はなくなった。
それが終わったら次は両親だ。
リビングで家族会議。
お母さんとお父さんが並んで椅子に座り、私はテーブルの反対側に座った。
『美月、どういうことなの? 先生から連絡があったのだけど』
お母さんから聞かれる。
『グラビアアイドルになりたいの。高校との両立は無理だと思うから』
『だめだ、だめだ芸能界なんて、そんな危険なところ、美月をやれるわけはない。お父さんは心配で心配で……』
お父さんはオロオロしながら私を説得にかかる。
それぐらいでうろたえるな父よ。
『美月……本気なの、本気でグラビアアイドルになりたいの? どうして?』
『それは、SNSを見てキラキラしてると思ったから』
お母さんの鋭い目が私を捉えて放さない。
『はあ……。誰に似たんだか。美月、ちょっと私の部屋に来なさい』
『ちょ、母さん、俺は?』
情けない表情をしながらお母さんに問いかけるお父さん。
『女同士の話よ。割り込んだらどうなるか……わかるわよね』
横をむいたお母さんの顔は見えなかったけど、まあたぶん鬼の形相をしていたのだろう。
『うむ。ここで待っておるぞ』
急にキリッとした父が待機宣言。
いや、娘の前だからって取り繕ってももう遅いけどね。
いつもお読みいただきありがとうございます!




