第24話 美月と健人③
「高校への進路も推薦で決まりかけてたときだったけど、断っちゃって、親と先生にめちゃくちゃ怒られちゃった。てへっ☆」
美月が自分で頭を軽く小突いてちょこっと舌を出した。
「美月さん、俺の前で猫被る必要ないから……」
「そうだね」
真顔に戻る美月。
「それで、無謀にも810プロのオーディションを受けに行って、当然落ちたんだけど、社長の百合さんに声をかけられて拾い上げてもらったんだ。猫背も治したし、滑舌も良くなったし、胸も大きく見せるようにして、目隠れしていた前髪も短くしたの」
「すごい行動力だな、そこまでして悠真のこと……、見直したわ美月さん。あ、美月さんはグラビアアイドルの愛崎詩織ってことでいいんだよね。1000万フォロワーの」
「そうだよ。他の人には言わないでね。バレバレだとしても私の口から話すこと自体がまずいんだから」
「わかってるよ。でも、そうなると……美月さんは去年の夏あたりから写真集出したりテレビに出るようになってたよね。デビューまで半年くらいしか経ってないはずだけど、そんなもんなの?」
「運がよかったみたい、私。私を育ててくれた社長は素材がいいから絶対売れる、って言ってくれたけど」
「それって、他のアイドルから妬み、やっかみが酷くない?」
「そうなんだけど、810プロはそういうことは許してなくてね。例えば、私にアンチが湧いてSNSを炎上させたとするでしょ? 事務所は徹底的に調べて、必要なら開示請求して仕掛け人を見つけるの」
「それで?」
「それが同じ事務所のアイドルだったりしたら、翌日にはSNSで『一身上の都合により引退のご報告をいたします』ってなっちゃうワケ」
「こわっ」
「他の事務所だったら、謝罪の文章を掲載するまで問い詰める。結局引退になるんだけどね。社長は常々、『相手を落とすことができたとしても自分の実力が上がることはない、そんなことも分からない奴は大成しない』と言ってるの」
「女傑じゃん。ムキムキだったりしない、その社長」
「810プロの公式ホームページの会社紹介のところに百合さんの画像あるよ」
健人は自分のスマホでさっと810プロを検索し、社長の画像を探した。
腰まである長い黒髪の穏やかな顔の美人が見つかる。
「めっちゃ優しそうな美人じゃん」
「そう思うじゃん? くっそスパルタだよ。努力する気がある人には手を差し伸べるけど、そうじゃない人には別人と思うくらい冷たいから。あと、柔道の達人」
「そうなんだ」
「私も習ってるんだよ。実は私ね、師範代の免許持ってる。ネットで広告打ってる『美容柔道・藤堂流』って知らない?」
「そんなのあったような、なかったような。俺のTLでは見たことないな」
「810プロに入ると強制的に習わされるんだ。自分で自分の身を守れるようにね。ネットだと『今まで散々貢いだのに恋人がいた! 騙された!』とか言って逆恨みしてくる人もたまにいるから……。でも美容って言ってるけど、それはただの釣りだよ。中身は由緒ある藤堂流で、ガチだから。でも体を鍛えれば美容にもいいから、詐欺じゃないんだ」
「ごめん、美月さん、めちゃくちゃ努力家なんだね。それに事務所に所属しながら進学校の鳳翔学園で僕に次ぐ3位の成績だなんて、俺だったら無理だ。なんかコツでもあんの?」
「わかんない。がむしゃらにやってるだけだから、悠真くんと釣り合うために」
「お前も感覚派かよ……。悠真とお似合いだぜ。そこまでいくとむしろ悠真のほうが美月さんを見習うべきなんじゃないのか?」
「悠真くんはいいの。どんな悠真くんでも好きだから」
「わかった、わかった。叶わねえな。美月さんに全面協力するよ。あのクソビッチに一泡吹かせるためにもな!」
「よかった、協力者ができて。一人で動くにも限界があるから、助かる。じゃあインスタの交換しよ。学校の人はあなたで二人目だよ」
「一人目は?」
「もちろん悠真くん!」
思わぬところで理解者をゲットした美月。
健人は当初美月に何かヒントがあるだろうと思って呼び出したが、唐突な寝取り宣言に驚く。
だが、その後に身の上話を聞いて協力する決意を固めるのであった。
なお、ケーキセットは協力のお礼ということで美月の奢りになった。
グラドルの稼ぎがあるので痛くもかゆくもない美月である。
いつもお読みいただきありがとうございます!




