第15話 頬にキス
「そういや美月さん、何か謝りたいことがあるって言ってたけど」
ちょっとだけ目を細めていた美月さんの顔が普段の笑顔に戻った。
「あ、うん、この間部屋に来た次の日、彼女さんに怒られたでしょ。だから、今回は部屋の香りを変えたんだ」
そういや、何か柑橘系の匂いがするな。
前回は甘い匂いだった気がするけど。
この匂いは、うーん、あれか、彩由美さんとかがよく使ってるやつだ。
なるほど、匂いバレするのを防ぐためか。
って、そういうことじゃないんだよ。
「部屋の香りとかじゃなくて……」
「悠真くん、いっつも私の胸見てるよね?」
「え?」
「いやだから、悠真くん、いっつも私の胸見てるよね? おっぱい揉んでみる? 柔らかいよ」
確かに柔らかそうだし、絶対陽菜より大きいだろうし……じゃなくて!
陽菜が美月のことを『あんなの見せブラでごまかしてるだけだから』って言ってたな……。
「えっと、それはほら、中学のとき告白してくれたでしょ。あのときそんな胸大きくなかったはずだよね、って思ってるだけで……」
我ながら苦しい言い訳だ。
つい見ちゃうのは許して。
「ああ、そういうことなのね。中学の時は、大きい胸が恥ずかしくってからかわれたこともあるし、男子から変な目で見られるから、小さく見えるブラを着けてたの」
一部の女子から反感買いそうなセリフが出てきたぞ。
具体的には彩由美さんとか。
陽菜が教えてくれたけど、いろいろと詰め物をしてるらしいが、触れないほうがいいよ、と言われている。
「でもね、810プロ社長の百合さんから、もったいないから女の武器として使おうよ、って言われたし、おっぱいが嫌いな男の子はいない、っていうから、それは止めたの」
それで彼女は売れているのだから、その社長さんの方針は正解だった、ってことだよね。
「もしかして悠真くん、この胸がパッドとか入れて水増ししてるとか思ってたの? 違うよ、天然ものだから。確かめてみてもいいよ」
ちょ、やめてください。
ここへ何しに来たかわかんないじゃん。
気がつくと、また美月さんが僕の隣にくっついてきた。
僕の手の上に彼女の手が乗せられる。
相変わらず柔らかいな。
そして、頬に柔らかい感触があった。
「ふふっ、頬にキスしちゃった。でもこれは浮気じゃないよね。だって悠真くん彼女さんともっとすごいことしてるでしょ」
それはそうなんだけど、口に出すのはちょっとやめてほしい……。
「残念だけど、胸はまた今度ね」
残念ではない、断じて。
あと、頬へのキスが浮気かどうか、あとでネットで調べておこう。
◇◇◇
「まだ、慌てるタイミングじゃない。ちょっとずつちょっとずつ……それから、陽菜さんと鬼塚先輩のことも調べておかなきゃ。あーやることいっぱいあるなあー。グラビアの撮影を少し減らしてもらおうかな」
少し顔を赤くした悠真が帰っていったあとの部屋で、美月の一人反省会だ。
「DMもうざくない程度に送らなきゃ。あと、陽菜さんといるタイミングで送らないように気をつけないと。先は長いなぁ。誰か協力者がほしいよ」
◇◇◇
美月の部屋に行ったことは、陽菜にバレていなかった。
話を聞いただけで僕からやましいことはしていないからね。
それからしばらく二人の間には何も起きず、美月さんはただニコニコと僕を見ているだけ。
あんなことまでしたのに、あれから特に動きがないのは不自然だ……と思ったけど、そういやもうすぐ中間テストの時期だ。
「毎度毎度言っているが、クラス落ちにならんよう気合いを入れろよ」
さすがに一年間同じことを聞かされてるから、もはやみんな話半分で聞いているであろうセリフだ。
「と思ったか? いいことを教えてやろう。美月が転入してきただろ? 美月のこと目当てで下位クラスが頑張っているらしいぞ。美月のことを餌に使うようですまんが、大人ってのはこんなもんだ、あと数年すりゃわかる」
「マジかよー」
「えー」
「先生、美月さんをダシにするなんて可哀想です!」
ん、一人いい子がいるな。
「ありがとう、でも私は大丈夫です。芸能界のほうが、もっといろいろありますから……」
「あっ……」
「マジかよ」
「美月ちゃんを悲しませる奴は許さん!」
美月さんが先生をフォローするつもりで言ったと思うけど、逆効果じゃないかな。
あとなんかガチ恋勢っぽいのがいるよ。
「う、うん、ともかく、先生が言いたかったことは、油断すんな、ってことだ。まあみんな頑張れよ」
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