第14話 腹パンされた
疲れた。
最終的に機嫌は治ったみたいだけど。
陽菜がツヤツヤしてましたよ。
そんなことがあった三日後、僕は昼休みの終わり際に中庭を通っていた。
次の時間は情報処理の授業で、別の棟にあるからそこに行くためだ。
すれ違いざま、ドンッと衝撃を受けた。
「いってえーな、どこに目ぇつけてんだよっ!」
と昭和みたいなセリフが飛んできた。
相手は、長い黒髪をオールバックにしている3年生、鬼塚龍也だ。
なぜ進学校にいるのかわからないくらいの、ザ・不良って感じで制服をいつも着崩している。
先公を何人も病院送りにした、とか武勇伝みたいなのがつきまとう生徒だ。
ホントかどうかは知らない。
ていうかさ、すれ違うにしても大人一人分くらいは離れてたはずなのに、どう考えてもわざとぶつかってきたな。
「あ、先輩、さーせん」
触らぬ神に祟りなし、だ。
適当に謝っとこう。
「あー、こりゃ賠償だなぁ! 肩の骨が折れちまったよ! ……うん、よく見たらお前……あぁ、2年の陽菜の彼氏か。おら、むかつくから殴ってやるよ!」
やっべ、こいつ意味わかんない。
逃げよ。
僕は早々にスタートダッシュをかました。
「ちっ、速えな。逃げんなよ……。そうだ、ヒナの本性を教えてやろうかぁー?」
わざとらしく大きく声を上げた鬼塚パイセン。
さすがに聞き捨てならないので、ピタッ、と僕は足を止めて振り返る。
そこにはニヤニヤしているパイセンの顔があった。
僕が逃げないとわかって悠々と歩いてくるパイセン。
「よく止まったじゃねえか、褒めてやんよ。ーーほら、褒美のパンチだ!」
「ぐえっ」
パイセンの腹パンが僕を襲った。
思わずうずくまりかけるが、罠だとしても聞いとかなきゃ。
「陽菜がどうしたっていうんですか……」
キーンコーンカーンコーン。
次の授業のチャイムが都合よく中庭に鳴り響く。
「残念、時間切れだわー。まあ、そのうちわかるさ、何も知らない哀れな学年1位クン! ギャハハハ!」
鬼塚パイセンは意味ありげなことを言いながら去っていった。
「大丈夫か、悠真。保健室へ行くか?」
そこへ健人がやってきた。
「アイツとお前がぶつかったのが見えたから、やってきたんだが……」
アイツって……。
因縁あり?
「アイツ……3年の鬼塚はな、俺の彼女にもちょっかい出してるんだよ。いまんとこ実害はないが、他にもいろいろと噂の絶えない奴だ」
めんどくせぇ奴にからまれちゃったな。
それにしても、陽菜の何を知ってるんだろう?
「アイツに何されたんだ?」
「向こうからぶつかったのにむかつくからって腹パンされた……保健室に行くほどじゃないよ。さあ、僕らも行こう。情処の授業に遅刻だ」
「ああ、わかった。何かあったら俺に言えよ」
「ありがとう」
思わぬところで友情が深まった気がするが、たぶんパラメータ的にはすでに友情値MAXなんだよな。
その様子を、美月が情報処理の教室の窓からじっと見下ろしていた。
「私は絶対に、許さないから……」
◇◇◇
しばらくは美月さんと会うこともなく、平穏な日が続く。
『ごめん悠真くん、この間のこと謝りたくて……ちょっと時間もらえないかな?』
ある日の放課後、先に美月さんが帰ったと思ったら、スマホが震えてインスタのDMが届いていた。
『謝ってもらうようなことはないはずだけど……何か話があるなら今度こそファミレスでいい?』
『えっと、ファミレスはちょっとね……金曜日される可能性があって。記事に飢えた人がどこにいるかわからないから、私こわいの。それに事務所からなるべく避けてと言われてる』
『810プロがそう言うなら、しょうがないね。じゃあ美月さんの部屋ってことでいい?』
『うん、私が先に行って待ってるから』
『おけ』
ポケットにスマホを入れて、教室を出た。
◇◇◇
久しぶりの美月さんの部屋。
アイボリーで統一されているのは変わらない。
「お待たせ」
「ううん、待ってないよ」
美月さんはすでに飲み物を用意して待っていた。
飲み物は前回と同じなので省略。
「悠真くん、学校はどう?」
「普通だよ。授業聞いて、終わったら陸上やって、だね。美月さんこそ、事務所と学校の掛け持ちってしんどくないの? ここ進学校だよ」
「大変だけど、望んでやってることだからね。それでさ、悠真くん、こないだ鬼塚先輩に殴られてなかった?」
「あ、見られてたんだ、恥ずかしいな。でも別にたいしたことなかったよ。警戒はしてたけど、あれから先輩に絡まれたりしてないし」
「あのね、逃げようとしたとき立ち止まって振り返ってたよね。何か言われたんじゃないの?」
ああ、あれか。
しかしそれは美月さんに言うことじゃないな。
「いや、本当に何でもないんだ、『逃げるのか、臆病者め!』って言われたから思わず止まっただけなんだ」
「ふーん、悠真くんがそう言うならいいんだけど……」
いや、これ以上突っ込まれる前に話題をそらさなきゃ。
「そういや美月さん、何か謝りたいことがあるって言ってたけど」
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