第11話 とりあえず交換
「悠真くん? どうしたの? まさか、他の女の子のこと考えてたりしない?」
僕をジト目で見てくる美月さん。
そういや美月さんと歩いて帰ろう、と言われて帰ってる途中だったんだ。
女の子の勘ってこわい、こわくない?
「あ、ごめん、何でもないよ。どう、学園は慣れた?」
僕より少し背が低い美月さんをちらっと横目で見ると、いつもの笑顔に戻っていた。
許されたかな。
当たり障りのない会話で場をつなごう。
「うん、学園は楽しいよ」
「勉強は大変なんじゃない?」
「正直言うと、付いていくのは大変だよ。でもね、頑張れるんだ、私」
「そうなんだ、偉いね。なんかコツとかあるの?」
「学年1位の悠真くんに言えるようなことはないけど、逆に悠真くんはどうやって勉強してるの?」
「えっと、僕の感覚だから、人に説明できないんだよね。こう、なんていうか、とりあえずガーッてやってみて細かい調整しながら確信持てたところでズバッとやる、みたいな。陸上も同じだよ」
「ごめん、全然わかんないや」
「うん、健人からも『お前はプレイヤーに向いているけど監督には絶対向いてない!』と言われてるよ」
「ふふっ、そうかもね。私は学園の勉強とか事務所のレッスンとか必死についていってるだけだから、羨ましいな。ねえ悠真くん、中学校のときも成績よかったでしょ?」
「うん、まあそうだったかな。昔のことを自慢するほど年を取ってないつもりだから言わないけど」
「悠真くん、何か私に聞きたいことがあるんじゃない? 何でも答えてあげるよ」
「ん、今何でもって……」
おっとと、美月さんとはまだそんな軽口を言い合える仲じゃないな。
「あ、なんでもなくて、そうだね……あの、愛崎詩織と似てるって言われてるけど、そうなの? 別に言えないとかならいいんだけど」
好奇心に負けて聞いてしまった。
僕だって健全な男子高校生だ、興味がないわけはない。
いやだって、大きいんだもん、胸が。
「うん、私はその詩織だよ。810プロ所属の」
「すげー、インスタフォロワー1000万人が僕の隣にいる……」
あっさりと答えを言う美月さん。
クラスではいつも『ふふっ、どうだろうね』とか、『禁則事項です』とかはぐらかしてるから、同じように言われるかと思ったけど。
つーかトップアイドルが僕の隣で歩いてるよ。
清楚で胸が大きくて、老若男女にウケがよくて向かうところ敵なしのアイドルだ。
さまざまな俳優や歌手、スポーツ選手などとの仲を噂されるたび、ネットの特定班が総力を挙げて調べたら、結局何でもありませんでした、がデフォの清純派だ。
これ、万が一怪我とかさせたりしたらさ、1000万人のファンから刺されるよね。
その前に810プロから違う意味でデビューさせられそうだけど。
そういう意味でドキドキしてきたよ。
「あ、インスタ交換しよ?」
そして美月さんがQRを見せてくる。
ちょっ、まずくない?
「これ、詩織じゃなくて私の個人アカウントだから大丈夫だよ。ネットの特定班にも知られていないから、悠真くんのことを探られたりしないよ、安心して」
そういって美月さんが画面を切り替えて見せてくる。
フォロワーもフォロー中も0人だ。
つか、なんで僕の不安がわかったし。
詩織の公式のアカウントは誰もフォローしていないから、もしその公式アカウントが僕をフォローしたら、たぶん僕は死ぬ、社会的に。
あ、物理的にかもしれない。
QRを読み込んで、僕は彼女の個人アカウントの最初のフォロワーになった。
「ありがとう、悠真くん! あ、もうこんな時間だ、付き合ってくれてありがとうね、もうレッスンに行かなきゃ。また明日ね」
そう言って手を振る美月さん。
このことはクラスの誰にも言わないほうがいいよね、特に男子には。
仲のいい健人には言ってもいいかも、って一瞬思ったけど、やっぱそれもだめだよな。
もちろん陽菜にも。
◇◇◇
「悠真、昨日はあたしに会えなくて寂しかった~?」
「う、うん、まあね」
「ちょっと何よ、そこは『寂しかったよ、陽菜』ってあたしに抱きつくところでしょ!」
「陽菜、みんな見てるし……」
次の日、学園に登校してきてから彼女の陽菜が話しかけてくる。
ていうか僕はそんなキャラじゃないはずだ。
昨日は彩由美さんたちと遅くまでカラオケしてたらしい。
そのテンションを引きずっているのか、妙に陽菜がハイだ。
僕はというと、昨日の夜は美月さんとインスタでDMをやり取りしてたので暇じゃなかった。
気がつけば寝落ちしていたけど、別に陽菜のことを忘れていたわけじゃない、決して。
やり取りした内容は、主に学園でのことだ。
美月さんは自分から積極的に誰かに話しにいくタイプじゃないけど、クラスの誰と誰が付き合ってる、他のクラスのこの子とあの子が……みたいなことを言ってて、僕が知っている範囲とほとんど一致していた。
僕も陽菜から聞いた話がほとんどだから、偉そうなことは言えないんだけどさ。
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