第1話 恋愛とかよくわかんないし……
「あ、あのね悠真くん、あなたのことが好きだったんです……!」
中学三年の冬、少し薄暗くなった夕方に僕は運動場の隅に生えている樹の下に呼び出されていた。
学校の情報処理で使う個人用メールに書いてあった内容がそうだったからなんだけど。
メールの差出人には、綾瀬美月とあった。
嘘告とか罰ゲームの可能性を考えたけど、そうじゃなかったら相手の人がずっと待ちぼうけになるだろうしそれはあんまりかな、と思ったので結局やってきた。
僕の目の前で告白のセリフのあとうつむいている長い黒髪の美月さん。
目隠れするくらい長い前髪のせいで表情がよくわからない。
眼鏡をしているのはわかるんだけど。
この場の雰囲気からすると別に罰ゲームを強要されたから、というわけではなさそうだ。
細い体が震えていて僕の返事を待っているのがちょっと小動物っぽいな。
あ、そんなことより返事しなきゃ。
「うーん、えっとごめんね、付き合うとかそういうのよくわかんなくて。僕、きみのことあんまり知らないし……ごめんね。それじゃあ」
そして僕は彼女の反応を見ずに踵を返して樹から去っていく。
もし泣きながらすがられたらどうしよう、告白されたこと自体はうれしいんだけど無責任に『はい』とも言えないしな……とか思ったけど特に何も起きなかった。
家に帰ってきてから、断ったのはもったいなかったかな、と少しだけ思う。
そういやどこかで会ったことがあるような気も……と考えているうちに寝落ちした。
◇◇◇
それ以来、美月さんとは特に関わることもなく僕は都内の進学校、鳳翔学園に入った。
入学式は事前に購入しているブレザーに袖を通した新入生とその親たちでごった返している。
僕は入学式会場のステージに上がって、あらかじめ学園から頼まれていた新入生代表スピーチをする。
失敗したら恥ずかしいので前日まで読み上げの練習をしていたから、スムーズに読み上げて終わった。
「あいつが成績トップなのか」
「甘いマスクをしたイケメンじゃない! やったー!」
ステージから降りるとき、そんな声が聞こえてきた。
あらためて新入生を見回す。
その中で目を引いたのは、明るい茶髪の女の子だった。
ブレザーを少し着崩しているが、大人の女の子っぽい雰囲気がある。
胸のあたりまである長い茶髪はゆるいウェーブがかかっていて、よく似合っている。
モデルでもやってそうだな、と思うくらいの美人さんだ。
そんな彼女は僕を見据えていた。
睨んでいるというわけじゃないけど、こう、品定めをしているみたいな感じだった。
午前中の入学式が終わって、午後からはクラスでの顔合わせ。
なおトップクラスはGクラスで、そのあとにA、B、Cと続く。
たぶんジーニアスのGだろうと思う。
クラス担任は中年男性の大谷先生だ。
大谷先生の指示でクラス全員が簡単な自己紹介をしていく。
「御影悠真です。将来の目標とかは……まだないです。中学では陸上をやってました。よろしくお願いします」
クラスが少しざわつく。
ちなみにクラスは20人いる。
「悠真って……、都の陸上大会で優勝してた悠真かよ! スピーチもしてたし、天は二物を、いや顔もいいから三物を与えてるんだな」
あ、なんか決勝の100メートル走で見たことある気がする顔の人がいるな。
僕の次は明るい茶髪の女の子の自己紹介だ。
「鳳翔陽菜でーす。よろしくー。理事長の娘だから」
彼女はそう言いながら僕を見据えていた。
そして僕の横の席に戻ってくる。
なに、ライバル意識でも持たれているのだろうか。
それで全員の自己紹介が終わり、大谷先生が話を続ける。
「おう、全員終わったか。じゃあ鳳翔学園名物の入学初日テストを行うぞ」
「えーっ、なんだよそれー」「そんな名物いらないよー」
ぶーぶー言う生徒を尻目に大谷先生はテスト用紙を配る。
「まさかと思うが、入学だけで満足して勉強してない奴はいないよな? 入試と同程度の難易度だ、あまりに点数が低いといきなりクラス落ちになるぞ。まあ、がんばれや」
クラス落ちだって。
その言葉を聞かされたみんなの顔つきが変わった。
初日のテストが終わると、今度は校内を回って部活の見学、そして上級生による勧誘ラッシュだ。
ビラを配られ、もみくちゃにされながらようやく陸上部の申し込みまでたどりついた。
僕は中学に続けて陸上部に入ると決めていたのでその場で入部届を書いて終わらせ、その日はそれで下校した。
◇◇◇
次の日、登校して朝のホームルームで、電子黒板に昨日のテストの結果が映される。
【1位:御影 悠真
2位:三浦 健人
3位:模蒲田 茂部尾
……】
「まあ、順当なところだな。入試の時とさほど変わりなかったぞ。この調子で頑張れよ」
と大谷先生が笑いながら言う。
クラス落ち、ってのはジョークだったのかもしれないな。
なお、鳳翔さんは真ん中くらいの順位だった。
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