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異世界新撰組  作者: ゆたぽん


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9/18

「白百合の少女」


ミリアとの会話が胸に引っかかったまま、

迅は魔法庁の静かな回廊を歩いていた。


そのとき――

棚から重い本が崩れ落ちる音が響いた。


「きゃっ!」


小さな悲鳴。


迅は反射的に駆け寄る。


「大丈夫っすか!?」


散乱した魔導書の山の中心に、

一人の少女が膝をついていた。


長い銀金色の髪が背中に流れ、

透きとおる尖った耳が覗く。


淡い蒼の瞳は湖面のように澄み、

白百合のような繊細さを漂わせていた。


(エルフ……?)


少女は慌てて本を拾い集めながら、

申し訳なさそうに言った。


「ご、ごめんなさい……。

不器用なのに、人族の施設を使うのはまだ慣れなくて……」


その声音はか細いが、

顔を上げると――彼女の表情はぱっと明るくなる。


「あなたは……新撰組の迅さんですね?」


「え、まあ……」


少女は胸に手を当て、丁寧にお辞儀した。


「わたしは リセリア・エル=エデル。

魔法庁の見習い官で……エルフ族の十八番目の分家です。

よろしくお願いします」


その所作は優雅で、どこか森の精を思わせる。


ただし、その次の言葉には

迅が思わず眉をひそめた。


「伊東先生がいつも褒めていました。

“驚異的な反射速度と、本能で戦う稀有な剣士”だと」


(……伊東の“先生”呼びだな)



◆ エルフとしての純粋さ、そして危うい心酔


散らばった書類を拾いながら、

リセリアは熱を帯びた声で語り始めた。


「伊東先生は、“世界を正しく導ける知の人”です。

わたしたちエルフは、人間の政治に希望を見いだせません。

でも……先生なら、この混乱も正せる」


迅は困惑する。


「……いや、アイツはちょっとやべえとこあるぞ?」


リセリアはぴたりと手を止めた。

エルフの瞳は揺れず、真っ直ぐ迅を見つめる。


「それは……違います」


空気が一瞬、冷たくなる。


「迅さんがどう感じているのかは分かります。

でも、先生の思想は完璧です。

偽りや暴力に頼らず、“理性”で世界を変えようとしているのです」


その目は透き通るようなのに、

中身は揺るがない信仰そのものだった。


(純粋だから……疑うことを知らないんだな)


エルフは長命種ゆえに、

一度信じたものを何百年でも信じ続ける。


それが、彼女の危ういところだった。



◆ ミリアとの対照を暗に示す一言


迅はつい言ってしまった。


「……でもよ、ミリアさんは伊東を怖がってたぜ」


リセリアの耳がぴくりと震えた。


「…………それは、嘘です」


先ほどまで柔らかかった声が、氷のように落ちる。


迅はたじろぐ。


「いや、ほんとにそう言って――」


「ミリアさんは人間です。

人間は、私たちエルフより“噂”に流されやすい。

だから……先生を誤解したのでしょう」


そこには悪意はない。

ただ“純粋ゆえの思い込み”があるだけ。


だが、その純粋さが

伊東の影響下にある危険を物語っていた。


リセリアは、ふっと小さく微笑んだ。


「……迅さんが、先生の邪魔をするつもりなら……

そのときは、わたしも黙っていられません」


柔らかく言っているのに、

瞳の奥は決して笑っていない。


(こいつ……マジで信じ切ってる)


しかし次の瞬間、

リセリアは耳を赤くして慌てて頭を下げた。


「す、すみません!

わたし、つい感情的に……!」


その必死な姿に、迅は苦笑した。


「いや、いいよ。そんな怒らなくて」


純粋で、不器用で、善良。

ただ“信じるもの”が危険なだけ。



◆ エルフ少女の、恋の初期衝動


片付けを終えたあと、

リセリアは顔を赤らめ、ぎゅっと資料を抱きしめた。


「……実は……」


「?」


「わたし、あなたの戦い方が……とても好きです。

小柄なのに、だれよりも速くて……

森を駆ける銀狼みたいで……」


迅は不意を突かれ、言葉を詰まらせる。


「そ、そうか……?」


「はいっ!」


エルフ特有の真っ直ぐな瞳で見上げ、


「もし……その……

わたしにも、“あなたの戦い方”を教えてくれませんか?」


迅は戸惑いながらも、

その純粋さに押されて頷いていた。


「……まぁ、時間あればな」


リセリアの表情は花が開くように輝いた。


「ありがとうございます! 迅さん!」


エルフの少女は、

嬉しさを隠しきれないように耳をぴこぴこ揺らしながら

何度も頭を下げた。


迅はまだ知らない。


後にリセリアは

伊東の思想と、迅への淡い恋心の狭間で揺れ、

悲劇か希望か――重大な選択を迫られる存在になることを。

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