「参謀・伊東甲子太郎」
王都での任務が続く中、
新たに王城から「戦術参謀」として一名が派遣されてきた。
その男の名は――
伊東甲子太郎。
本来の歴史なら、後に新撰組を離脱し、
土方や近藤と深刻な対立を起こす人物。
だがこの世界ではまだ、
礼儀正しく、穏やかで、理論的で、
誰が見ても“理想的な参謀”だった。
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◆ 新撰組の作戦会議にて
「初めまして。伊東甲子太郎と申します。
どうか力を合わせ、この異世界での任務を成功させましょう」
伊東は優雅な所作で頭を下げた。
その表情は柔らかく、誠実ささえ漂っている。
迅は純粋に「優しそうな人だ」と感じた。
しかし――
土方は無言で彼を見つめ、微かに眉を寄せる。
沖田も、笑っているが、目だけが笑っていなかった。
斎藤は、ほとんど瞬きもしない。
迅はその様子に気づく。
(……なんでこんなに警戒してんだ?
この人、すげぇいい人そうなのに)
伊東は皆の違和感に気づいたように、にこりと微笑む。
「安心してください。
私はあなた方の“力”を信じています」
柔らかい、しかしどこか“距離を詰めすぎる”微笑み。
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◆ 戦術の説明――有能すぎる参謀
伊東は地図を広げ、帝国兵の進路、魔法使いの配置、
王都の政治的弱点までも見抜いていた。
「大丈夫。あなた方が戦うべき場所は、すべて私が整えます。
新撰組は前線で戦えばよいのです」
一見すると頼もしい。
だが土方は、あえて冷たい声で聞いた。
「俺たちの戦い方に口出しできるほど、この世界を知っているのか?」
伊東は涼しい笑みを浮かべた。
「知っていますよ。
調べれば……何でも」
その言い方は、
“情報で人を支配する者”の口調に近かった。
迅は背筋に小さな悪寒を感じた。
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◆ ミリアの件に触れる伊東
会議が終わり、
迅が部屋を出ようとした時、伊東に呼び止められた。
「迅くん、少し」
「は、はい?」
伊東は柔らかい微笑を浮かべたまま、
まるで“心を見透かすような目”で迅を見た。
「ミリア嬢……
彼女には深入りしないほうがいいですよ」
迅は驚きのあまり声が出なかった。
「どういう意味っすか?」
「彼女の家系は、王国内でも特殊でね。
“治癒”と“封印”の血筋。
帝国も、王城内の一部も……
彼女を利用したい勢力が多い」
「利用……?」
伊東は穏やかに笑った。
「迅くん。
君はまっすぐすぎる。
戦場では、その優しさが命取りになりかねない」
その言葉は優しい。
しかし――
その裏には、明らかに“彼女を切り捨てろ”という意図があった。
迅は反発する。
「俺は……ミリアを助けたいっす」
伊東は微笑を崩さず、静かに目を細めた。
「……その答えが、
後で君を苦しめるかもしれない」
その表情は――
まるで迅の未来を知っているかのようだった。
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◆ 立ち去る背中に見える影
伊東が去った後、
影のように斎藤が現れた。
「……あいつの言葉、どう感じた」
「なんか……全部見透かされてるみたいで嫌っす。
何者なんすか、あの人」
斎藤は淡々と告げる。
「今は味方だ。
だが……土方さんは信用していない」
「なんで?」
斎藤は短く言った。
「“笑っている時ほど、敵を測る目になる”男だからだ」
迅は思わずぞくりとした。




