「揺れる気持ちと、新撰組の日々」
王都での生活にも少し慣れ、任務の合間には束の間の休息が訪れる。
新撰組の宿舎は質素だが、笑い声と活気に満ちていた。
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◆ 朝の訓練――妙に機嫌のいい沖田
「迅くん、今日は妙に元気ないね」
木刀を振りながら沖田が余裕の笑みを浮かべてくる。
迅は肩を回しながら答える。
「いや別に……普通っすよ」
「ミリアちゃんと話した翌日だけ、落ち着きないよね?」
「は!? 全然関係ないっす!!」
沖田はわざと大げさに笑う。
「いや〜、あの子さ、昨日の資料の運搬手伝ってくれたんだよ。
その時に『迅さん、いつも無茶してませんか?』って心配してたよ」
迅は驚いて木刀を落としそうになった。
「……マジで?」
「うん。優しい子だよねぇ。
ああいう女の子、守りたくなっちゃうよねぇ?」
「沖田さん、その言い方やめてください」
「ん? 嫉妬?」
「してねえっす!!」
沖田は完全に楽しんでいる。
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◆ 昼――ミリアと“別の誰か”が話している
任務帰り、迅が王城の廊下を歩いていると、
前方でミリアが誰かと話しているのが見えた。
相手は――
黒髪の青年・アレス
王城騎士団の若きエリート。
迅より背が高く、礼儀正しく、剣も魔法もできる褐色の好青年。
(なんであいつと……?)
近づくと、アレスは優しい笑顔でミリアに何かを渡していた。
「こちら、昨日落としていましたよ」
「あ……ありがとうございます。助かります」
ミリアが受け取ったのは――
迅が拾った“あのリボン”と似た布。
迅の胸がざわつく。
(なんだよ……なんで男が二人もミリアの落とし物拾ってんだよ……俺の時は偶然だったのに……)
アレスが気づいて声をかけてきた。
「おや、あなたは新撰組の迅殿ですね。
ミリアがよく話していましたよ」
「俺の話……?」
ミリアは慌てて両手を振った。
「あ、あれは……その……!」
アレスは続ける。
「迅殿の戦い方、興味深いです。
小柄なのにあの反射速度……訓練を見せていただけませんか?」
迅は思わず警戒する。
(なんでミリアの前で俺に興味示すんだよこいつ……!)
ミリアは気づかぬまま微笑む。
「アレスさん、迅さんは強いんですよ。私も助けられました」
その言葉に迅は照れるが、同時に胸がモヤモヤした。
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◆ 夜――土方に心を読まれる
宿舎に戻ると、土方が帳面から視線も上げずに言った。
「迅、稽古が雑だったな」
迅はぎくりとする。
「そうっすか?」
「心が乱れると間合いがぶれる。
……何かあったのか」
なぜか、土方の言い方は叱責ではなく“相談を促す声”に聞こえた。
迅は言葉に迷い、口ごもった。
「……別に。
ただ、その……人間関係の……ことっす」
「ふん。恋沙汰か」
「!!」
土方は筆を置き、淡々と告げた。
「戦士は戦場で死ぬ。
だが、死ぬまでの時間を誰と生きるかは、自由だ」
迅は目を見開いた。
「……副長、そういうこと言える人なんすね」
「俺を何だと思ってる」
「鬼副長っす」
「殴られたいようだな」
「すみません!!」
だが土方は少し笑った。
「お前はまだ若い。
心が揺れるのは悪いことじゃねぇ」
その言葉は、重く胸に残った。
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◆ ベッドの上で独りになると
迅は天井を見つめた。
(……ミリアが他の男と話しているのが気になっただけだ。
それだけのはず……)
だが胸のモヤモヤは消えない。
沖田の言葉。
アレスの優しさ。
ミリアの笑顔。
あの仮面の男の視線。
全部、引っかかって仕方がない。
「……なんだよ俺。
生まれる時代間違えたと思ってたけど……
恋愛とか、してる余裕なんてねぇはずなのに……」
そう呟いて、眠れない夜が続いた。




