第5話 「王都の風、揺れる心」
王都での事件から数日。
新撰組は治安維持任務を続けつつ、隊としての立場を固めつつあった。
迅はまだ子どもを助けた件で土方に目をつけられていたが、
沖田や斎藤との距離は少し縮まっていた。
そんな折——
新たな人物が彼らの前に現れる。
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◆ 王城・資料室にて
任務資料を取りに向かった迅は、薄暗い資料室で“誰か”が棚と格闘しているのを見つけた。
「えっと……これ、上の段……届かない……!」
白いローブの女性が背伸びしているが、まるで届く気配がない。
迅は思わず声をかけた。
「大丈夫っすか? 取りますよ」
女性は振り返った。
栗色の髪、澄んだ瞳、そして華奢な体つき。
見た目は完全に“非戦闘職”だ。
「あ、ありがとうございます……! えっと、あなたは……新撰組の?」
「迅っす。異世界から来た……まあ、一応、隊士です」
女性はぱぁっと笑った。
「私は ミリア・アーデル。王城の文官で、この資料室の担当なんです」
小柄で、物静かそうなのに、笑うと一気に雰囲気が華やぐ。
迅は一瞬、言葉を忘れた。
「(……かわいい……いや落ち着け俺!)」
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資料を届ける道すがら、ミリアはぽつりと呟いた。
「昨日の魔力暴走事件……迅さんが止めたと、聞きました」
迅は驚く。
「え、なんで知ってんすか?」
「医療棟で男の子の治療を手伝いました。
あの子……魔力を制御できない体質らしくて」
少女の声は優しかったが、どこか影があった。
「止めてくれて……ありがとう。
王都には、助けられるべき人がまだたくさんいるのに……
政治が動かなくて、手が届いていないんです」
迅は胸が刺された。
ミリアの言葉は、この世界の“理不尽”を真正面から語っていた。
「俺……助けたいって思っただけっすよ」
ミリアは静かに微笑む。
「そのままでいてください。
迅さんみたいな人が、この王都には必要なんです」
――その言葉が、なぜか強く心に残った。
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資料を届けて戻る途中。
「お、迅くん。顔が赤いじゃん?」
「誰かと会ったのか?」
突然現れた沖田と斎藤に挟まれ、迅は慌てふためく。
「な、なんでもないっす!」
沖田はにやにや笑う。
「新撰組、恋愛は禁止じゃないけど……土方さんには言わないでおくね」
「いやマジで違いますって!!」
斎藤は淡々と告げた。
「ミリアか」
「なんで分かんだよ!!」
「心拍の上がり方が不自然だ」
「お前サイボーグかよ!」
沖田は楽しそうに肩を叩く。
「まぁ、あの子は人気者だよ。
文官だけど、王国内では“奇跡の治癒の家系”とか噂されてる」
迅は息を飲む。
(……あの優しさの裏に、何かある?)
胸の奥がざわついた。
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夕方、迅は資料室に忘れ物を取りに戻る。
ミリアはもう帰ったらしく、部屋は静かだった。
机の上に、小さな 布切れのリボン が落ちていた。
触れると、微かに暖かい。
魔力が込められているようだ。
(これ、ミリアの……?)
その時、背後で気配が動く。
気づけば窓の外に“仮面の男”が立っていた。
迅は思わず身構える。
男は無言で迅を見つめ、
ミリアのリボンに視線を落とし、
薄い笑みを浮かべて去っていった。
(……なんでミリアのものを……知ってる?)
恋愛の予感は同時に、“危険な匂い”も漂わせていた。




