「種族を超えた友」
ゴブリンの青年――グルッグは、まだ震える手で胸を押さえていた。
先ほど迅が止めたのは、わずかとはいえ“人族の冒険者に殺されかけた”命。
恐怖が抜けきらないのも当然だ。
「……助けてもらった。理由、聞いていい……?」
おそるおそる向けられた瞳は黄色く、犬のように真っ直ぐだった。
迅はいつもの気取らない笑顔で肩をすくめる。
「助ける理由に種族とか関係ねぇだろ? 弱ってるやつを見たら放っとけねぇだけだよ」
それは、現代で喧嘩ばかりだった迅を唯一理解し続けた“優しさの根”でもあった。
グルッグはぽかんと口を開け、次の瞬間、拳をぎゅっと握った。
「……兄貴になってくれ!」
「はあ!?」
「兄貴だ! オレ、兄貴みたいに強くなりたい! さっきの一撃……あんな速さ、見たことねぇ! 兄貴の背中、追いたい!」
涙目で、鼻息荒く、勢いだけは一人前。
迅は呆れ顔をしながらも、内心ではどこか懐かしさも感じていた。
(……こういう一直線なやつ、嫌いじゃねぇんだよな)
しかし――。
「いや、ゴブリンの社会とか色々あるだろ? 俺なんかについてきても……」
と言いかけたところ、グルッグは即答した。
「そんなのどうでもいい! オレは、“オレをちゃんと見てくれた人”についていく!」
その瞬間、迅は言葉を詰まらせた。
かつての彼は、現代日本で「問題児」「不良」「厄介者」としか扱われなかった。
正面から“見てくれた人”なんて、ほとんどいなかった。
(……見てほしかったのは、俺の方だったんだよな)
小さく息をつき――。
「……しゃーねぇ。好きにしろよ」
「兄貴ぃぃぃいい!!」
グルッグは感極まって、ずるりと土に頭をこすりつけるように大の字で喜んだ。
迅は苦笑しながら頭をかいた。
「おいおい……そんな大げさにすんなって」
しかし、王道少年漫画の“熱い出会い”というものは、まさにこういう瞬間に生まれる。
――このとき迅はまだ知らなかった。
このゴブリン青年が、後にとんでもなく頼れる**相棒**に成長することを。
そしてグルッグもまた、迅に“兄貴”以上の意味を見いだしてゆくことを。




