「守りたい背中ができた日」
新撰組本陣の裏庭。
夜明け前、薄い霧が立ちこめる中――
ロッカはひとり、木刀を握っていた。
(強くなりたい……!
兄貴の隣で、胸張って立てるように……!)
しかし、木刀を振れば振るほど、
身体がついていかない。
種族的に力も弱く、身体も小さい。
それでも必死に振り続ける。
「……ぜぇ、ぜぇ……!」
膝が折れた。
だが――
「ロッカ、サボんなよ」
背後から響く声。
振り返れば、
軽い笑みを浮かべた迅が立っていた。
ロッカは慌てて立ち上がる。
「に、兄貴……!
ぼ、僕……兄貴みたいに、なりたくて……!」
言った瞬間、ロッカの目に涙が滲む。
「兄貴に助けられて……
僕も、誰かを守れるようになりたいんです……!!」
迅は少し黙ってロッカを見つめ――
小さく笑った。
「じゃあ……付き合ってやるよ」
「えっ?」
「修行だよ。
泣くほどやりてぇなら、やってやる」
ロッカは顔を輝かせた。
「兄貴っ!!」
⸻
■ 迅式“ど根性スパルタ訓練”
迅は木刀を投げて寄越す。
「まずは体幹。
構えがブレてんぞ」
「は、はい!!」
そこからは完全に少年漫画調の修行。
・木刀が重くて腕が震えるロッカ
・構えが崩れ、すぐ転ぶ
・でも何度も立ち上がる
迅はぶっきらぼうに見えて、
毎回必ず言葉をかける。
「いいじゃんロッカ。
倒れても立てるなら、それで十分だ」
「はいっ……はいッ!!」
呼吸が苦しい、腕が上がらない。
何度も涙が出る。
それでも――
(兄貴は……俺を見てくれてる!!
兄貴みたいになりたいんだ!!)
その想いだけで立ち上がる。
⸻
■ そして事件は突然起こった
修行後、二人は市場へ向かった。
ロッカは疲れ切っていたが、
目はどこか誇らしげだ。
「兄貴……!
ぼ、僕、今日……初めて、木刀が……!」
「おう。
よく頑張ったじゃん」
その瞬間――
「きゃあああ!!」
悲鳴が上がった。
盗賊風の男が商人を殴り飛ばし、
袋を奪おうとしている。
ロッカは怯える。
(ま、また悪い奴……!
でも僕じゃ……僕じゃ敵わない……)
迅が前に出ようとしたその時。
ロッカが叫んだ。
「兄貴!!
僕が……行きます!!」
迅が驚いて振り向く。
「ロッカ!?」
ロッカは震えながらも盗賊の前へ走った。
(兄貴に助けられたあの日みたいに……
僕も、誰かを守りたい!!)
ロッカは盗賊の前に立ちふさがる。
「や、やめろ!!
その人から離れろ!!」
盗賊は鼻で笑った。
「なんだ小僧……ゴブリンか?
邪魔だッ!!」
拳が振り下ろされる。
ロッカは――
倒れなかった。
迅の教わった構えで、
腕で受け止めていた。
「う、ぅ……!」
腕は痛い。
体も震えている。
だが――
「逃げません……!!
兄貴みたいに、強くなりたいからッ!!」
盗賊が苛立ち蹴りを放つが、
ロッカはまた耐える。
「倒れな……い!!
ぼ、僕は……もう逃げない!!」
周囲の人々が息を呑んだ。
しかし盗賊は本気で殴りかかる。
「死ねぇッ!!」
その瞬間。
「――舐めんなよ」
迅の影が、ロッカの前に立っていた。
ロッカを庇い、盗賊の拳を片手で止める。
「俺の弟分に手出してんじゃねぇよ」
静かに、しかし底のない怒気が走った。
盗賊は真っ青になる。
迅は拳を放ち、
一撃で盗賊を吹き飛ばした。
――静寂。
ロッカは震えながら迅を見上げる。
「兄貴……僕……!」
迅はロッカの頭を軽く拳で小突いた。
「バカ。
死にかけてんじゃねぇよ」
ロッカは申し訳なさそうに俯く。
だが迅は続けた。
「でも……
よく逃げなかったな。偉いよ」
ロッカの目から涙が溢れる。
「兄貴ぃ……!!
僕……兄貴みたいに……強くなりたいんだ!!」
迅は笑った。
「じゃあ、これからも修行だな。
お前には、素質あるよ」
「はいっ!!
兄貴!!
僕、絶対兄貴みたいになります!!」
人々は拍手を送り、
ロッカは胸を張って誇らしげに立っていた。
この日、ロッカは決意する。
“迅兄貴の隣にいられるぐらい強いゴブリンになる” と。
それは、たしかな一歩だった。




