「土方、副長の顔」
夜の空気が少し冷え始めた頃。
迅はロッカを連れ、宿舎へ戻ってきた。
新撰組の本陣――
といっても今は王都の借り受けた屋敷だが――
門の前に立つと、ロッカがそわそわ震え出す。
「に、兄貴……ここって……
すごい強そうな人たちの匂いがします……」
「気にすんな。
まあ……ちょっと怖いけど慣れろ」
迅が軽く拳でロッカの背を押す。
門を開けた瞬間――
「おい迅! 遅かったじゃねえか、どこほっつき歩……」
沖田総司が軽く笑いながら迎えに出てきて――
ロッカを見るなり、目を見開いた。
「……え? ゴブリン? なんで連れてんの?」
ロッカはビクッとして、迅の背に隠れた。
迅は気まずそうに頭を掻く。
「あー……色々あって助けたら、ついてくるって聞かなくてさ」
沖田は呆れたように笑う。
「迅くん、猫とか拾ってくる感覚で
ゴブリン拾ってこないでよぉ……」
と、そこへ隊士たちが集まってくる。
「なんだあの緑の……?」
「ゴブリン? 攻撃してこねぇよな?」
「いや子ども……か? 青年? わかんねぇ」
ざわつく隊士たち。
ロッカは完全に怯えている。
(やっべぇ……兄貴、怖い……! みんな強そう……!)
迅はロッカの肩に手を置く。
「大丈夫だ、ロッカ。
俺が何とかする」
その一言だけで、ロッカは少し震えが止まった。
しかしそこへ――
重い足音が響く。
土方歳三、副長の登場だ。
「なんの騒ぎだ。
夜に戻ったと思えば、またトラブルか?」
土方は鋭い目で迅を見る。
そしてロッカへ視線が移る。
「……迅。説明しろ」
迅は姿勢を正し、簡潔に話した。
・王都でゴブリン青年が襲われていた
・助けた
・仲間にしてほしいと頼まれた
・放っておけなかった
説明している間、
ロッカは土方におびえきっている。
(な、なんだ……この人……
兄貴より小柄なのに……虎みたいな目してる……)
土方はしばし沈黙した。
そして吐き捨てるように言う。
「迅……
お前、ここが何やる場所かわかってんのか?」
迅は目をそらさずに答える。
「わかってる。
けど、弱ぇ奴見捨てるのは嫌なんだ」
土方は目を細めた。
「情けは人のためならず、というが……
情けが仲間の首を絞めることもある。
ここは戦場だ」
隊士たちも緊張する。
普通ならここで“却下”だ。
だが――
迅は一歩前に出た。
「副長。
あいつは戦えるわけじゃねぇ。
でも……裏方としては使える。
荷物持ちでも雑用でもなんでもやらせるよ。
俺が責任持つ」
土方は迅を睨みつけたまま、
ロッカへ視線をあらためて向ける。
「……名は?」
「ろ、ロッカ……と、申します……」
「迅についていく理由は?」
ロッカは震えながら、
しかし必死に言葉を絞り出す。
「助けて……くれました……
ぼ、僕……兄貴みたいな人に……
なりたくて……!」
土方は僅かに眉を上げた。
そして長い沈黙ののち――
「……迅が責任を持つなら、しばらく預かる」
隊士たちがざわつく。
「副長!? 本気ですか?」
「ゴブリンを……?」
だが土方は低く言い放つ。
「迅が拾ってきたなら、意味があるのだろう。
あいつは無駄なことはしない」
迅はびっくりした顔になる。
「副長……」
土方は目を細めて言う。
「ただしロッカ。
もし仲間に刃向けたり、
部隊に危害を加える素振りを見せたら……
その首は俺が落とす」
ロッカは蒼白になりながらも叫んだ。
「し、しません!
絶対にしません!
僕は兄貴と……迅兄貴と一緒にいたいです!」
迅は笑いをこらえながら、ロッカの肩を軽く叩く。
「言えてんじゃん。
ま、よろしく頼むわ副長」
土方はため息をつく。
「……まったく、
お前は面倒ごとばかり拾ってくる」
だがその言い方は、
どこか呆れながらも気にかける親のようでもあった。
こうして――
ロッカは新撰組の“雑用係兼弟分”として
正式に迎え入れられたのだった。
ロッカは感極まって号泣する。
「兄貴ぃぃぃ……!」
「泣きすぎだっつの!」
だが、そんな光景を見ながら沖田が小声で呟く。
「……迅くんってさ、
こういう“弱者”がいつの間にか集まってくるよね」
土方は目を細める。
「そういう星の下に生まれたんだろ。
……問題は、それが吉と出るか凶と出るかだがな」
新撰組の夜は、
また少しだけ騒がしく、温かくなった。




