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異世界新撰組  作者: ゆたぽん


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14/18

「路地裏の灯――優しさを隠せない男」



王都の夕暮れ。

市場に吊るされた色とりどりのランプが灯り始めると、

街は昼とはまったく別の表情を見せ始める。


新撰組宿舎を抜け、

迅は久々に“任務のことを考えない時間”を作ろうと街へ出ていた。


「はぁ……監視とか、排除とか……

ああいう話、向いてねぇよな俺」


ぼそりと呟きながら歩くと、

路地裏の方から子どもの泣き声がした。


迅は反射的に足を向ける。


狭い裏路地で、

小さなエルフの子どもが転んで尻もちをつき、

周囲の少年たちに囲まれていた。


「おい泣くなよ。耳長族のくせに弱ぇな!」


「魔法使えるならやってみろよ!」


完全ないじめだ。


迅は無言で少年たちの間に割って入った。


「お前ら、やめとけ」


声は低いが、怒鳴るわけではない。

ただ静かに、しかし揺るがない。


少年たちは顔を見て唖然とした。


(ちっちゃ……いや、なんか怖ぇ!?)


迅の存在感は“大柄の男”のそれではなく、

喧嘩慣れした獣のそれだった。


「なんだよ兄ちゃん、関係ねぇ――」


迅は一歩だけ踏み出した。

それだけで少年たちは一斉に後ずさる。


「関係あるだろ。

困ってる奴が目の前にいるんだ」


その優しさに、

子どもたちは抵抗する気をなくして散り散りに逃げていった。


「大丈夫か?」


迅が膝をつき、

転んだ子どもの手をそっと持ち上げる。


小さい手は泥だらけだった。


「ひっく……ひっ……」


「泣いていいけどよ、まず傷見せろ。

血、出てねぇか?」


迅は袖を破り、手際よく布を巻く。


(……手慣れてる。

喧嘩で怪我するたびに、自分でやってたんだろうな)


「ほら、痛ぇだろ。

でも強がらなくていいからよ」


子どもは涙を拭きながら聞く。


「お兄ちゃん……人間なのに、怒らないの……?」


迅はぽかんとした顔で笑った。


「何で怒んだよ?

耳が長かろうが、短かろうが、痛ぇのは同じだろ」


その言葉は、

本人は何気なく言った一言だが――

この世界では珍しいものだった。


子どもは一気に泣きながら抱きついた。


「ありが、とう……!」


迅は頭をぽんぽんと撫でる。


「よしよし。

でも夜は危ねぇから家まで送ってやるよ」


その時だった。


路地裏の入り口に、

小さな屋台を出している老婆が気づき、声をかける。


「兄ちゃん……ありがとうよ。

耳長族を庇ってくれる人間なんて、滅多に見ないからねぇ」


迅は照れたように後頭部を掻く。


「いや、普通のことしただけっすよ」


「普通……じゃないよ。

この街ではね」


老婆はゆっくりと歩み寄り、

子どもの頭を撫でたあと、迅に小さな包みを渡した。


「これ、お礼に。

うちの名物の“月果パン”だよ。

甘いのが嫌いじゃなければ食べておくれ」


迅はまばたきをして、

遠慮しようとして――やめた。


「……じゃあ、ありがたく」


袋を開くと、

ほんのり光る淡い青のパンが入っていた。


子どもが笑って言う。


「それ、夜にしか食べられないんだよ!

ありがたい物なんだから!」


迅は苦笑した。


「そっか……じゃあ大事に食うよ」


そのとき、老婆がふとこんなことを口にした。


「兄ちゃん……

あんた、“あのエルフの娘”と仲がいいんだろ?」


迅は思わず固まる。


老婆は続けた。


「あの子……泣いてたよ。

街から帰る途中、一人で。

何度も自分を責めるみたいに、耳を押さえてね」


迅の胸がざわめく。


「……いつ?」


「今日の昼過ぎさ。

まるで、何かから逃げてるみたいに……」


迅は立ち上がり、子どもを抱えて歩き出した。


(リセリア……

土方さんの任務のせいで、疑われるのに気づいて……

一人で悩んでたのか)


子どもが小さな声で尋ねた。


「お兄ちゃん……行くの?」


迅は優しく微笑んだ。


「ああ。

大事な奴が泣いてるなら、放っとけねぇだろ」


その声は強くも優しく、

喧嘩しか知らなかった少年の“新しい答え”だった。


月の光だけが照らす路地裏で、

迅の背は、誰よりも温かく見えた――。


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