「転生武将の影――炎帝《えんてい》と呼ばれた男」
夜の王都。
月は雲に隠れ、重苦しい闇だけが広場を覆っていた。
その中央で、
一人の男が燃えるような赤い外套を揺らし立っていた。
炎のように逆立つ黒髪。
鋭い眼光。
甲冑ではなく異世界製の黒いマントに身を包んだその男を、
周囲の者たちは畏怖を込めてこう呼んだ。
「炎帝」
そしてその正体は――
「さあ行くぞ、我が軍勢よ。
この“魔王領”を攻略し、次は王都を取る」
焔のような声が響く。
背後には、
日本の戦国とは似ても似つかぬ――
だが確かに“忍”“武士”“傭兵”が入り混じった精鋭集団が控えていた。
その群れを束ねる男は、
にやりと笑った。
「――織田信長。異世界でも、天下を取る」
炎帝・織田信長。
彼もまた、迅たちと同じく転生者だった。
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■ 転生武将の軍勢
信長の周囲には
異界の魔導甲冑や巨人族の重騎兵まで取り込み、
“戦国でも現代でもない”奇妙な軍隊が築かれていた。
「殿。王都の新撰組とやらが力をつけ始めております」
腰の低い忍が耳打ちした。
信長は愉快そうに笑う。
「ほう、新撰組か。
歴史の小道を歩んだ者たちが、異世界で何を成す?」
信長は空を見上げる。
「面白い。
この世界……我ら転生者を争わせるために生まれたのか?」
その言葉は、
何か“黒幕の存在”を知っているかのような口ぶりだった。
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■ 転生者の連合軍
信長の傍らには、
今は影のように沈黙している二つの影があった。
ひとりは、
猫背で長い槍を背負う青年。
「信長公……そろそろ俺も戦場に出ていいかい?」
「焦るな。お前は切り札だ、上杉謙信」
もうひとりは、
重厚な鎧を身にまとった巨体。
「殿、我が巨兵隊も準備万端。
この世界の“城”など、紙のように崩れましょうぞ」
「ふん、頼もしいわ、武田信玄」
戦国最強の宿敵たちが、
今は信長の“異世界総軍”として同盟していた。
その異質な光景は、
この世界がただのファンタジーではないことを物語っていた。
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信長は焚き火に照らされた地図を広げる。
その指が指したのは――
王都でも、魔王領でもない。
「ここだ。“封印の断層”。
この世界で最も危険な場所。
そして我ら転生者が“呼び出された理由”が眠っている」
謙信が笑みを浮かべる。
「理由、か。
やはり信長公、何か掴んでおられますね?」
「この世界は……
我らがいた世界の“続き”だ」
その言葉は、
一見意味不明のようで――
しかし、真実を突いていた。
信長は薄く笑う。
「我ら転生者は、この世界を救うために呼ばれたのではない。
選ばれ、試され、互いに戦わされるためだ」
焔がゆらりと揺れた。
「だからこそ……
この異世界の“創造主”を斬る。
それが我が新たな天下布武よ」
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信長はふと、地図の端に描かれた紋章を指差す。
「この紋……最近、王都に現れたという異界の剣士のものか?」
忍が答える。
「はい。“アサギ色の羽織の集団”だとか」
信長の笑みが深くなる。
「ほう……
どうやら、この戦いも面白くなりそうだな。
新撰組――貴様ら、この炎帝を楽しませてみよ」
その眼には、
“笑いながら世界を焼き尽くす”ような狂気と覇気が宿っていた。




