「白百合のエルフ、森で微笑む」
王都の外れにある訓練場。
風が通り抜ける広い芝生は、
剣士と魔法士が共に使う数少ない場所だ。
迅は肩を回しながら、軽く息を吐いた。
(エルフと訓練なんて……俺の人生、どこで間違えたんだ)
そんな独り言を消すように、
軽い足音が背後から近づいた。
「迅さん、お待たせしました」
振り返った迅は、反射的に瞬きした。
リセリアだった。
真っ白な魔法庁の制服は、腰まで流れる
銀金色の髪と驚くほどよく似合っていた。
光に照らされた髪は、金糸にも銀の雫にも見える。
細身の体に沿って揺れるロングコートが風になびき、
そこから覗く 尖った耳 が陽に透けて淡く輝く。
まるで森の精霊がそのまま歩み寄ってくるようだった。
迅は少しだけどぎまぎする。
「……なんか、今日すげぇ綺麗だな」
「えっ!? あ、あの……」
言われた瞬間、リセリアの耳がぴん、と立った。
そして、ふにゃっと赤くなる。
(耳が赤くなるの反則だろ……)
慌てて視線を逸らしたリセリアは、
胸に手を当てて深呼吸するように整える。
「きょ、今日の訓練……よろしくお願いします」
その声は震えているのに、
瞳は真っ直ぐで、どこかすがるような光を帯びていた。
◆ 戦いの姿勢に入るリセリア
リセリアは訓練用の杖を構えた。
白い杖の先端から、淡い光の粒がふわりと散る。
「迅さんの動きは“読めない速さ”だと聞いています。
だから……わたしは“守る魔法”で挑みます」
蒼い瞳に決意が宿る。
優しい少女が一瞬だけ“戦士”の顔になる。
その表情は思わず息を呑むほど美しかった。
(こんな細い身体から……あんな目ができるのか)
すぐ横で、白百合が静かに戦いの準備を整えているようだった。
◆ 訓練開始――予想外の接近
迅は腰を落とし、構えた。
「じゃあ……行くぞ、リセリア」
「はいっ!」
その瞬間――
風と共に迅が一歩踏み込む。
リセリアは驚くほど冷静だった。
長い髪が宙に浮き、
光の結界がぱっと花開いたように展開する。
「《光盾》!」
迅の拳が結界に触れた瞬間、
透明な薄膜が光の花びらを散らすように震えた。
「やっぱすげぇな、エルフの魔法……」
「い、いえっ……!
迅さんの動きが速すぎて、見失いそうなくらいで……!」
リセリアの耳がわずかに震える。
緊張している証拠だ。
結界越しに見える彼女の瞳は、
驚きと高揚でゆっくりと色を深めていく。
そして――
結界が急にしぼみ、光が弾けた。
「えっ――」
リセリアの身体がふらりと傾く。
「危なっ!」
迅は反射で腕を伸ばし、
倒れかけた彼女の腰を抱えた。
ふわりと、森の清水のような香りが鼻先をくすぐる。
リセリアは目を丸くしたまま、
耳を真っ赤にして固まった。
「~~っ!! あ、あの、すみません……!」
「いや、魔力切れか? 無理すんなよ」
「……迅さんが近くにいると、
ちょっと緊張してしまって……魔力の集中が……」
「え?」
「なんでもありませんっ!!!」
とっさに目をそらすリセリア。
髪がさらりと流れ、
光を受けて金と銀が混じる色がきらめいた。
⸻
◆ 迅の胸に芽生える、小さな違和感
倒れたリセリアを支えながら、
迅はふと胸がざわりと波打つのを感じた。
(……なんだこれ)
触れた瞬間に伝わる体温。
頬が近い。
髪の香りが鼻に残る。
喧嘩と荒事ばかりの日常では
決して感じなかった種類の緊張。
そして――
リセリアの蒼い瞳が、一瞬だけ揺れた。
その瞳の奥には、
“迅への憧れ”と“伊東への忠誠”が同時に燃え上がっているように見えた。
二つの火は、今はまだ小さい。
けれど、いつか必ず――
どちらかが彼女の運命を焼き尽くすだろう。
迅はまだ、その意味を知らない。




