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6:辛勝。そして

サイトは、初めての生死をかけた緊張と恐怖から解放され、なおも多大な疲労感に包まれたまま、頭にナイフが刺さり血を流しているホーンラビットだった物を解体し始めるトトイの後ろ姿を見ている。



「さあ、サイト。いつまでもそうしているな」



トトイの声に促され、サイトはゆっくりと立ち上がろうとするも、足元がおぼつかずふらついてしまう。



「リーナ、肩を。」


周囲を警戒するソーイ牧師がリーナに肩を貸すよう助言する。

慌ててリーナがサイトを支える。



温かなリーナの体温がサイトの緊張と恐怖から現実へと意識を引き戻す。

サイトは実戦の恐怖を肌で知った。



(雑魚モンスターでも、こんなに…)



理想と現実の乖離。

転生した自分であれば楽々とこなせると思っていた。



「…コイツだって死にたくないんだ。命がけだよ。」



サイトの姿を横目でチラリと見た、解体中のトトイが、サイトとリーナに聞こえるよう呟く。



どこか甘く見ていた自分たちへの、忠告に2人が呆然としているところで、ソーイ牧師が鋭く声を上げる。



「サイト!リーナ!まだいるぞ!」



別の草むらから、先ほどのホーンラビットよりも一回り大きい個体が飛び出してきた。



トトイがすぐさま、解体中のホーンラビットの臓物を投げつけ、飛び出してきたホーンラビットの体勢を崩させ、突撃を中断させる。



「サイト!!!…いけるか?」



瞬間、体が強張り恐怖が再度襲う。

それでもココで終わるわけにはいかない。

サイトはリーナから離れ、バックラーを前に構え、右手の剣を強く握りしめる。



ホーンラビットは素早く跳ね回り、間合いを計りつつ撹乱するかのように動きまわる。



サイトは相手の動く方向にバックラーを向け続けるように動き、先程の戦闘を思い返しながらホーンラビットを視界に捉え続ける。



(剣は腰の位置で相手に向け続ける、バックラーで受け流した先に剣さえあれば、さっきみたいなことには…!!)、



ホーンラビットが大きく左側に移動するように跳ねた。



(今だ!着地を!!)



ホーンラビットの着地点めがけ左斜め方向へバックラ―を構えたまま走り出す。



「サイト、そっちは!!」

「馬鹿野郎!!」



ソーイとトーイの声が響いた瞬間、ドンッ!と左側の何かに衝突し体勢を崩す。

サイトは右足を大きく出し踏ん張りながら、視界には小さな悲鳴を出し倒れていくリーナの姿。



周りが見えていなかった。

恐怖と集中で視野が狭くなり、ホーンラビット以外、何も。



リーナはサイト同様、いやそれよりも恐怖と緊張の中にいたのか、突然のことに対応ができず、地面に倒れ込む。



ホーンラビットは着地した瞬間に勢い良くまっすぐに、リーナに向け飛ぶように駆け出す。



(直線的な動き!!!)



サイトは踏ん張った右足の反動を利用し、左足に重心移動しながら剣の柄を逆手に持ち替え、体を捻り全力で剣をホーンラビットの進行方向に投げると同時に駆け出した。



剣はリーナとホーンラビットの間の地面に刺さり、急に現れた金属の固まりに怯んだホーンラビットは更に左に大きく逸れるように動く。



「エアショット!」



ソーイが右手から放った風の魔法、空気の玉がホーンラビットに命中し、空中で大きく弾き飛ばされる。


サイトはそのままバックラーを構えホーンラビットに体重をかけ、バックラー越しに体当たりを行う。



グガンッ!!と角に当たった後、すぐさま頭部に当たった音が衝撃とともにサイトに伝わる



ぎゅっ!



ホーンラビットが鳴き声を上げ、大きく体勢を崩して地面に転がった。

当たりどころが良かったのか、ホーンラビットはビクビクとしながら、立ち上がろうとしない。



トトイがサイトの隣に立ち、自身の剣を地面に跪くサイトの前に突き刺す。



(俺が、自分で、トドメを…)



トトイの剣を引き抜き、横たわる死を迎える獣に全力で振り下ろす。

ゴルンと首の骨にぶつかり両断出来なかった感覚が剣を介してサイトに伝わる。



「まぁ、ソコまで切れてれば、もう動けないだろ。」



トトイの一言にサイトの体から力が抜け、腰が砕けへたり込む。



「…説教は後だ。リーナ。このナイフでコイツを解体しろ。」



死が近づくホーンラビットを睨んだままのトトイが、背中越しに地面に座り込むリーナに指示する。


リーナは涙を溜めた瞳でサイトを見た。

サイトは言葉が出なかったが、その真剣な目を見て、強く頷いた。



リーナは意を決したように息を吸い込み、ホーンラビットにゆっくりと近づいた。



「ごめんなさい……」



小さな懺悔の言葉を呟き、リーナはホーンラビットの胴体にナイフを突き刺す。



グジュル



ぶ厚い革を貫き、内臓に達した嫌な感触と音が響いた。

ホーンラビットの体はぴくりとも動かなくなった。

その感触は、ナイフを握るリーナの手から、傍で見ているサイトにも伝わってくるように感じられた。



リーナはすぐにナイフから手を離し、その場にしゃがみ込んでしまった。



「……よくやった。サイト、リーナ、これが実戦だ」



サイトとリーナは、この命を奪うという行為の重みを初めて共有し、初めての勝利と、死と隣り合わせの戦いを肌で感じた。



それから王都への旅までの一ヶ月間、サイトとリーナは週に一度、この森での魔物駆除に同行することが日課となった。



三度目以降の実戦では、サイトは前回学んだ教訓を活かした。

魔物に背を向けず、リーナ、トトイ、ソーイ牧師を視野に入れつつ、周囲の地形を把握し動き、剣をぶつける。


ホーンラビットは攻撃のとき、直線的な動きしかしない。

バックラーで突進の軌道をわずかに逸らし、すかさず剣を振り抜いた。

ホーンラビットはバランスを崩して地面に倒れる。


リーナの方は、突進してくるホーンラビットに向け、バックラーの横から右手を差し出しアイス・ダガーを放つ。

氷のダガーがホーンラビットにカウンター気味に突き刺さり、容易く倒している。



「やったね、サイト!」



リーナは以前の緊張から解き放たれたように、喜びの表情を見せた。

彼女もまた、この一ヶ月で実戦慣れをし、恐怖を制御できるようになっていた。



リーナは、植物の精霊の力を借りてホーンラビットの足元から根を生やし動きを拘束するバインド・ルーツや、遠距離から確実に仕留めるアイス・ダガーを駆使し、森に被害を出さずに魔物を駆除する方法を身につけていった。

リーナの魔法の才能は、実戦の場でも輝きを増していた。



一方、サイトもどうにか魔法で安全に倒そうと試みているが、発動に時間がかかる以上、どうしても危険がある。



そんなサイトの姿を見てソーイ神父からアドバイスを受ける。

曰く、サイトの魔法の問題点は魔力の練り上げにある。

魔力を魔法に変換する点に置いては問題がないが、そこに至るまでのスタートダッシュに問題がある。



魔法が使えても、実戦レベルで使えないタイプは往々にしてサイトのような状況であり、そこから努力しても改善できるのは一握りということだった。



それでもサイトは諦めるつもりはない。



(俺は転生者なんだ…。せっかくの魔法が有る世界なんだ。使えるようになるはず…)



根拠の薄い確信だけが、サイトを突き動かす原動力だった。

この世界で特別な存在として生きるための、











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