4:四色の伝説と、未来への決意
トーサ村の小さな教会は、ほのかな灯りに照らされていた。
壁に掲げられた女神像が優しく微笑んでいるように見える。
週に一度の夕方の集会。
サイトはリーナの隣に座り、ソーイ牧師の話を聞いていた。
今日の話は伝説として伝えられている英雄譚。
すなわち勇者と魔王の話。
サイトは姿勢を正した。
彼の日常の努力は、全てこの「伝説」がきっと自分の転生への意味が込められていると信じていた。
「遥か昔より、この世界には魔王が現れ、その都度、女神の神託により聖女様と勇者様が選ばれてきました」
ソーイ牧師の穏やかな声が響く。
「魔王の源は、闇に属する精霊たち。彼らは、人の心に巣食う恐怖、怒り、嫉み、といった暗い感情を好みます。その闇の精霊の寵愛を特に受けた者が、魔族を束ねる魔王となるのです」
「魔族には、オーガ族や魔人族といった元々異界に住まう古来の種族、そして闇の感情に飲まれたり呪いにかかった人間や獣人などが闇の精霊に魅入られ魔人に姿を変えた者がいます。」
「魔王は異界に住む者の中から産まれます。そして異界からこちらの世界へ侵攻を開始するのです。その目的は闇の精霊の影響の拡大とされています。争いを起こし世界を暗い感情で埋め尽くすこと。」
「聖女様と勇者様はその危機が迫ると女神様の神託により選ばれるとされています。そうして彼らは魔力とは異なる、神聖なオーラを使う事が出来るようになります。そのオーラは闇に抗う力、希望と勇気で未来を指し示す光。」
サイトはそこで、思わず隣のリーナを見た。
まっすぐと自分の父を見つめ耳を傾けるリーナ。
自分が勇者であれば、きっと…。
「聖女様は、どの時代でも必ず一人。女神様から与えられたオーラは白く、その光は継続的な癒やしと護りの力を与えるとされています。まさに勇者様の旅路を照らす、希望の象徴です。」
リーナと手を繋いだ時のことを思い出すサイト。
彼女の温かく柔らかな手は、サイトに未来への希望を与えてくれる。
「そして勇者様は、時代により最大三人。それぞれ異なる色のオーラを持ちます。」
牧師はゆっくりと説明を続けた。
「まず、最も勇敢で最も女神様の寵愛を受ける青の勇者様。この方はどの時代でも必ず現れ、聖女様の白いオーラほどでは無いですが、癒やしと護りの力を与え、さらに身体能力を大幅に上昇させる青いオーラを纏います。聖女様もそうですが、貴族の血筋から選ばれることが多く、現在の貴族の方の多くにはその青い血が流れているとされています。」
サイトは強く拳を握りしめた。
リーナと自分は貴族ではない。そこが少し不安を煽るのだ。
「次に、稀に現れる緑の勇者様。この方は聖女様よりも強力な回復力を持つとされ、切り落とされた腕が生えるほどの奇跡を起こせるとも伝えられています。しかし、歴代の緑の勇者様でもただ1人しか、その力を使いこなせず、それ以外の緑の勇者様は中級程度の回復魔法同等の回復力だったそうです。」
「そして、最も危険なのが赤の勇者様です。触れたものすべてを破壊すると言われる強力な赤いオーラを持ちますが、悲しいことに、歴代の赤の勇者様は、ほぼその全てが破壊の力に飲まれ、闇の精霊の眷属つまり魔人へ姿を変えてしまったそうです。いつしか赤の勇者様に選ばれた時点で処刑されるようになりました。」
サイトはゴクリと唾を飲んだ。
自分にはそんな危険な力よりも、安定してリーナを守れる青のオーラが良い。
緑のオーラでもいいかもしれない。きっと自分なら使いこなせる。異世界転生した自分なら。
「青の勇者様と聖女様は、魔王討伐後に結ばれることが多く……それは、女神様の恩寵による、最も神聖で美しい物語なのです」
牧師がそう言って説教を締めくくると、教会のざわめきが大きくなった。
隣に座っていたリーナが、肘でサイトの脇腹を小突いた。
「ねえ、サイト」
リーナはいたずらっぽく目を輝かせ、教会のざわめきに紛れるように囁いた。
「もし、サイトが勇者様に選ばれたら……聖女様と結婚しちゃうの?」
サイトの鼓動が一瞬で跳ね上がった。
(おい、やめろよ、そういうテンプレのセリフは……!)
「さあ、どうだろうね」
サイトは曖昧に笑った。
「でも、勇者に選ばれたら、そうかもね」
そもそも魔王が現れるかもわからない。
いや、異世界転生したのだサイトには魔王が現れる確信があるが、他の人には伝説の話で現実に起こるとは思わないだろう。
だから、いたずらっぽくリーナに言葉を返した。
「ふーん」
リーナは少し頬を膨らませたが、すぐに笑顔に戻り、彼の腕を軽く掴んだ。
「まあいいや。サイトはね、勇者様にならなくても、私にとっては最高のヒーローだよ」
その無邪気な一言は、サイトの心に希望と同時に絶望的な重さを与えた。
(違う。リーナ。俺は勇者に選ばれる。だから強くならなきゃいけないんだ。君を守るためにも…)
サイトは自分とリーナが勇者と聖女に選ばれる。
その確信をもち、改めてその時が来るまでに強くなる覚悟を決めた。




