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2:きっと、ここから

丘の上の見慣れた大木の下、遠くには大きな山々が見え、丘の下では両親や近所のオジサンやオバサン達が麦の収穫に勤しんでいる。


おだやかな風が幼いサイトの黒髪を撫でる。

大木を背に胡坐をかき座る。


五歳の少年のまだ成長しきっていない自身の短い腕を胸の前に回し両手を合わせる。

掌に自身の体温を感じ、その感触に集中し中心点にエネルギーを集めるイメージ。


ゆっくりと両手を離し、僅かにあいた空間に更に全神経を集中させる。

身体中を巡ると言われる「魔力」を押し集めるイメージ。


ぼんやりとした熱を感じながら、目を閉じ汗を滲ませながら集中し続けること、およそ十分。


──チリ、チリ……。


サイトの掌の間に、小さなオレンジ色の粒が生まれた。



小さな「種火」ほどの火。



村の小さな教会で牧師に頼み込んで見せてもらった、魔法の基礎中の基礎。

どんなに頼み込んでも、やり方は教えてもらえなかった。


根負けした牧師が、両手を合わせすぐに離して揺らめく小さな炎を見せてくれた。

『こうやって精霊様の御力を借りるんですよ。』

『もう少し大きくなったら教えてあげますからね。』


そんな事を言われても、魔法があるなら使ってみたい。

見様見真似で両手を合わせ、なんとなくイメージで練習を始めた

やり方はわからない。



この世界の生き物は、須らく魔力を持つ。

休日の教会の集会で牧師は言っていた。


魔力がどういったものかはわからない。

教えても貰えない。


漫画やアニメの記憶を元に、なんとなく両手の間に集中をしてみる日々。

徐々にぼんやりと魔力らしき物を感じるようになった。

しかし、この小さな種火を出せるようになるまで、一年も費やした。



「ココまでが限界か」



光を維持できないことを悟り、サイトは集中を解く。

種火はパチリという音もなく、儚く消える。


時間はかかるものの、最低限の魔法を使える。

それだけで、今の彼は満たされていた。



「サイト?また魔法の練習?」


背後からの声に、サイトは肩を跳ねさせた。

振り返ると、そこにいたのは長く綺麗な茶色の髪が風になびく少女の姿。



「なんだリーナか。そう。いつもの練習だよ。」



「汗だくだよ?がんばり過ぎないでね?まだ子どもなんだから!」


リーナはため息をつきながら、サイトの隣に座る。



同い年で幼馴染のリーナ。

半年だけ早く生まれたからとお姉さんぶるいつもの少女の姿に、微笑ましさを感じる。



リーナは目を閉じ両手を胸の前で合わせる。

すぐに手を離し、その間に拳大の炎が現れる。



「サイトのおかげで私もできるようになったけどさ。」



リーナの何気ない言葉、自身の種火と比較にならない大きさの炎。



(どうせ俺は、才能がない)



五歳にして、サイトはこの世界での自分の立ち位置を理解していた。

この世界に転生してから今日まで、彼の中には二つの記憶が共存している。


一つは、この世界の幼い身体で過ごした両親やリーナ、村の人々との温かい日々。

一つは、約一年前の四歳の誕生日に唐突に蘇ったおぼろげな前世の記憶。



前世の自分は、日本に住んでいた男だった。



──名前も。

──自分の顔も。

──親も友人も。

──仕事も。


そして、死んだ理由も。



何一つ、はっきりと思い出せない。

覚えているのは、子供の頃はテレビのヒーローになりたかったこと。

成長するにつれて、スポーツでも、研究でも、お笑い芸人でもいい、名が知られるほど何かを成し遂げられる特別な人物になりたい。と思っていたこと。


大人になっていくにつれ、自分より秀でた物に打ちのめされ、現実を知り夢を諦めていったという経験をしたという事実は覚えている。


そこそこ頑張れば、そこそこの結果は出た。

だが、それ以上頑張っても目標にはたどり着けなかった。

次第に頑張りすぎるのを辞め、努力に見合わない結果に傷つくのが嫌になった。

結局、夢も目標も無く、ただ漫然と人生を過ごしていたということも覚えている。


そんな人生に終止符が打たれたきっかけは分からない。

覚えているのは、大きな衝撃と、眩しいほどの光が最後の記憶だった。



(多分、トラックか何かに跳ねられたんだろうな。定型的な異世界転生だ。死ぬほどの衝撃や痛みを覚えてないだけ、得をしているか)



気がいたときは、この世界で赤子として生まれていた。

最初は言葉も分からず混乱したが、赤子のおぼろげな視界でも、目の前の若くて優しい男女の表情や周囲の光景に、自分が異世界に転生したのだとなんとなく理解した。


そこから意識は途絶えたが、四歳の誕生日にハッとそこまでを思い出した。

理由はわからない。


赤子の肉体と大人の魂のバランスが合ってないとか、そんな適当な理由だろう。

もしこの世界に神様が本当にいるのなら、転生の時に教えてくれていたのかもしれない。


戻った記憶と、四歳までの子どもの記憶が混じり合いう。

不思議と違和感は無く両親への愛情はあるし、違和感はなかった。



この平和な村で、たまに魔物モンスターが現れる程度の暮らし。

村の小さな教会では、勇者と魔王の伝説を何度も聞かされた。


「きっと、自分が転生したのはこれに関係する。今度こそ、この人生でこそ俺は何かになれる」


その希望こそが、この丘で彼が一人、汗を流す理由だった。



サイトは隣に座るリーナを見た。

それに気づいたリーナは微笑む。


サイトは、この子に対して抱く感情が、幼い頃からの子供なりの好意と、前世の記憶を持つ自分から来る大人としての父性が入り混じる、複雑で微妙なものだと自覚していた。

そして、前世の自分の経験した挫折を、今世でも経験させられた相手。



まだ、これからさ。

独学だしな。



サイトは立ち上がり、服についた草を払った。



「さ、帰ろうか。みんな心配するしね。」



リーナも笑顔で立ち上がり、何事もないように彼の右手を握って繋いでくる。

繋いだ手から伝わる体温を感じながら、サイトは平凡な村へと歩き出した。


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