1:覚悟の決め所
「貴様らのような貧弱な攻撃が!この獣魔人ライノスの自慢の身体に傷一つ!つけれるものか!」
ライノスと名乗る、二足歩行のサイのような姿をした獣人が吠えた。
幾人もの兵士の剣や槍による攻撃を分厚い体皮ですべて受け止め、身体には一切の切り傷がない。
太く筋肉の塊のような腕で巨大な戦鎚を振り回し、周囲の兵士を容赦なく薙ぎ払っていく。
目測で身長2メートルは優に超えるであろうライノスは、黒い瘴気を纏い、サイトたちの前に立ちはだかっていた。
その奥では魔王軍四天王の一人、銀髪の大猿型獣魔人【剛獣将コンゴウ】と勇者パーティの四人が激戦を繰り広げている。
コンゴウの猛攻を防いでいるのは、傷だらけの藍色の鎧を纏った勇者ニール。
彼は盾を構え、必死にコンゴウの攻撃をいなし続ける。
勇者の身体からは青いオーラが溢れ出ており、賢者や剣士、そしてパーティの後方で祈りを捧げる聖女リーナを包んでいた。
白い法衣を纏ったリーナは祈りの力で、パーティへ守りと癒やしの加護の白い光を放つ。
勇者の青い光と混じりあい、青いオーラが加護の力を強化している。
サイトの小隊にも、勇者パーティの青と白の光の輝きが見える。
勇者と聖女だけが使える力。
人類の希望の光。
キーン小隊長の声が響く。
「ジビスは俺と前衛で撹乱!サイトとエイランは魔法で牽制!魔族と言っても獣魔人、元は獣人だ!臆するな!奴を倒し勇者様たちの元へ行くぞ!!」
「「「了解です!」」」
剣を構え走り出すキーン小隊長に続き、頭部から大きな角が生えたヒューマンベースの鹿獣人ジビスが飛び出す。
サイトの右隣に立つ男、エイランは左手の前で魔力を練り火球を生み出す。
サイトはそれを横目に納刀し胸元に両手を持っていき、魔力の玉を作り出す。
少しずつ魔力を凝縮しながら、ライノスから視線を逸らさず斜め前方へ走り出した。
「ファイア・ランス!」
エイランの下級火属性魔法が、小隊長とジビスの間を飛び抜けてライノスの胴体に着弾する。
「その程度の魔法で!賢者でも連れてこい!」
ライノスは魔法を物ともせず、戦鎚を振りかざす。
キーン小隊長は身を屈めて回避し、ジビスは鹿獣人特有の脚力で飛び跳ねる。
「隙だらけだな!」
ライノスは体勢を崩すのを厭わず戦鎚を振り切り、右肩を着地し切っていないジビスに向け、そのまま巨体をジビス目掛けて加速する。
ジビスは必死に剣先をライノスに向けるが、距離が近く分厚い体皮に剣の腹を弾かれる。
ライノスの巨体がジビスに直撃し、吹き飛ばされる。
「アイス・アロウ!」
サイトは胸元の魔力の玉から右手だけを離し、ライノスの足元に向け氷の矢を放つ。
体勢を崩し、踏ん張ろうと足を動かし始めた瞬間、足元を氷の魔法で地面に固定されるライノス。
そのまま腹ばいに倒れた。
チャンスとばかりに、ライノスの戦鎚を回避したため身を屈めていたキーン小隊長が、体勢を活かしバネのように加速し、剣先をライノスの右肩に突き立てる。
「ぐぉぉぉっ!」
ライノスの低く大きな悲鳴が響くも、剣は刀身の五分の一程度しか刺さっていない。
「浅いっ!」
ライノスの堅く分厚い体皮に小隊長はそれ以上の剣を押し込むのを断念し、剣から手を離し後方へ跳びライノスから距離を取る。
「顔を狙えっ!」
サイトが胸元の魔法の玉に魔力を凝縮し続けながら叫ぶ。
エイランが放った「ファイア・ボール」がライノスの顔面に命中し、顔面の粘膜と呼吸器系を焼く。
「スタン・ショック!」
悲鳴を上げるライノスに対し、サイトは続けて下級電撃魔法を、ライノスの肩に刺さったままの小隊長の剣めがけて放った。
ライノスが叫び声を上げ、全身が痙攣する。
剣を利用し身体全体へ電撃を走らせたのだ。
下級とはいえ、筋肉が麻痺し動きを封じるには十分なダメージだ。
「マジック・ボム!」
サイトは痙攣し舌を出した開いたままのライノスの口に目掛け、胸元の魔力の玉を発射した。
サイトの魔力量の半分を時間をかけて凝縮した、手のひら大の魔力弾は、ライノスの口内から内臓にたどり着き、サイトの合図で一気に解き放たれ爆発した。
内部から破壊されたライノスは血を吐き断末魔を上げ動かなくなる。
小隊長はライノスに吹き飛ばされた他隊員の槍を拾い、口内から脳天に向け突き上げトドメを刺した。
サイトはそれを尻目に、再び胸元に両手を揃え魔力を練り始めている。
視線は勇者パーティの方に向き、聖女リーナを見つめていた。
「まだだ。ジビスの様子を確認し、体勢を立て直してからだ。」
今にも飛び出しそうなサイトを、キーン小隊長が忠告するように制した。
「…わかってます。」
サイトは必死に気持ちを抑え、ジビスの方を見る。
幸いダメージは少ないようで、エイランが回復魔法をかけながら「あと少しです」と、勇者パーティの状況を注視しているキーン小隊長へ報告の声を上げる。
「マズイ!!!」
キーン小隊長の叫び声。
サイトが振り向くと、リーナがコンゴウに吹き飛ばされたのか空中にいた。
勇者パーティの三人は倒れ、悲痛な顔でリーナの方を見ている。
コンゴウはリーナに向かい走り、跳ぶ。
空中で両手を組み、彼女を地面に叩き落とすつもりなのがわかる、
「フレア・ボム!」
サイトは右手を自身の足元に爆発魔法を放った。
爆発のダメージを厭わず、その衝撃を推進力に変えリーナ目掛けて飛び上がる。
「リーナ!!」
空中で彼女を抱きしめ、魔力の玉を掲げた左手をコンゴウの振り下ろす両手に向けた。
「フレア・ボム!」
コンゴウの攻撃が当たる直前、再度爆発魔法を放つ。
爆発の衝撃からリーナを身体でかばい、自分とリーナを無理矢理、コンゴウの攻撃の軌道から回避させた。
リーナを抱きしめ、ゴロゴロと転がり着地するサイト。
リーナもサイトを強く抱きしめている。
「サイト…ありがとう」
リーナの声に答える間も無く、コンゴウの足元にアイス・アロウを放つ。
着地の瞬間に足を地面に固定されたコンゴウは体勢を崩すが、強靭な脚力で無理矢理氷を破壊した。
一瞬の足止めにしかならないか…
サイトに絶望の感情が押し寄せる。
「一兵卒がなかなかやるな…だが、ここから何かあるかな?」
ニヤリと笑うコンゴウ。
「どうだろうね・・・」
サイトは余裕を見せるように強がってみせる。
しかし、ライノス戦後に凝縮した魔力は使ってしまった。
再度凝縮するには時間がかかるし、残された魔力も少ない。
勝てる方法など微塵も思いつかない。
だが、ここで諦めるわけには行かない。
リーナを護る。
勇者パーティだからじゃない。
聖女だからじゃない。
彼女とは幼馴染として生きてきた。
聖女として選ばれ、歩む道が違えても、ずっと心の片隅で…。
異世界に転生したあの日、何者かになれると信じた。
結局何者にもなれなかった。
転生前と同様に、何の才能も持たず、何にも選ばれず、何も変わらない人生を生きてきた。
それでも今
好きな人くらい
せめて命がけで
サイトはリーナの前に立ち、両手を前に突き出し残った魔力で魔力の玉を形成する。




