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第6話 先読み

昼下がりのギルドは今日も賑わっていた。

受付前には依頼を終えた冒険者が列をなし、奥の酒場では笑い声と酒瓶の音が響く。


扉を開けた途端、聞き慣れた声が飛んできた。

「お、ユウタ。それにミリアも」


振り向けば《暁の環》の四人が揃って立っていた。

リーダーのアレンが軽く手を上げる。

「ちょうどいいところだ。今日も一緒に依頼に行かないか?」

「……そうだな。お前たちとなら心強い」

俺が応じると、隣のミリアが嬉しそうに「よろしくお願いします!」と頭を下げた。


「じゃあ掲示板に行こうか」

アレンに導かれ、人の波をかき分けて依頼掲示板の前へ向かう。


そこに、一人の男の姿があった。

黒い外套を肩にかけ、渋い髭を蓄えた細身の中年。

腰の剣に軽く手を添えたまま、依頼票を無造作に眺めている。


「おお、ラウガンか」

アレンが声を掛けると、男はちらりとこちらに視線を寄こした。

「おう、アレン……暁の環か。相変わらず真面目にやってるか?」

「お前も相変わらずだな。まだ一人か?」

「はは、俺は気楽でいいさ。呼ばれりゃ行く、気が向かなきゃ断る。それで飯は食えてる」


軽口を叩きながら依頼票を指で弄ぶ。

その自然さに、俺は「ああ、そういう立ち回り方もあるのか」と妙に感心してしまった。


ミリアは俺の背に半分隠れるように立っていたが、意を決したように一歩踏み出した。

「……あの、先日は助けてくださって、ありがとうございました」


ラウガンの目がわずかに見開かれ、すぐに口元が笑みに変わる。

「礼なんざいらねぇ。たまたま通りかかっただけだ」


ひらりと手を振り、一枚の依頼票を抜き取ると、男はそのまま人混みの中へと消えていった。


「あいつはラウガン」

アレンが呟く。

「腕は確かだ。誰にでもついていく傭兵みたいな奴だがな」


俺はただ、飄々としたその背中を見送るしかなかった。

だが隣のミリアは、まだ少し強張った表情でじっと立ち尽くしていた。



「よし、俺たちはこれだ」

アレンが依頼票を掲げる。街道沿いに巣食った魔物の討伐任務。

「一緒に来るか?」

「もちろんだ」


蒼雷の守護と暁の環は肩を並べ、依頼に臨んだ。

連携はすでに板についてきている。

ミリアの《迅雷》《跳躍》が敵の注意を引き、俺の《看破》と《弱点特効》で仕留める。

暁の環の堅実な守りと矢が加われば、魔物は瞬く間に片付いた。


「悪くない動きだな」

戦闘後、アレンが感心したように言う。

「だが、まだ伸びる余地はある。俺たちと一緒に訓練しないか?」



相手はブラムとカイル。

ブラムは分厚い盾を構え、その手には木剣。

一歩ごとに地面を鳴らしながら、低く重い姿勢で間合いを詰めてくる。

その後方ではカイルが弓を番え、こちらの動きを伺っていた。


看破を発動し、視界に赤い光点が浮かぶ。

ブラムの脇腹、喉元。カイルの胸、左腿。


だが、ここは訓練。

実戦と同じように狙えば、相手に致命傷を与えてしまう。

急所を外し、寸止めを意識する。

小さく息を吐き、剣を握り直した。


「行きます!」

ミリアが駆けだす。

迅雷の勢いで地を蹴り、跳躍と共に視線を攪乱する。

その隙を狙って、俺は木剣を構えた。


赤い光点が誘う。だがそこを突くわけにはいかない。

ギリギリで軌道を逸らし、木剣を盾に叩きつける。


「ふっ!」

ブラムが低く唸り、盾で受け止めた。

同時にカイルの矢が飛ぶ。

俺は慌てて身を捻り、矢が頬をかすめた。


「くっ……!」

じわじわと追い詰められる。

寸止めの制約がある分、いつものような決定打が出せない。


「……看破はただの目じゃない」

矢を避けながら、俺は思考を巡らせていた。

今までの戦いを振り返って気づいたことがある。


看破で見える赤い光点は、ただの物理的な急所ではない。

生き物が持つ「殺意」「防御」「恐怖」――そういった意思の発露が形になったものだ。

だからこそ、人間相手でも、狼でも、ゴブリンでも同じように見えるのだ。


ならば――


俺は息を吸い込み、《構造理解》を発動する。

筋肉の収縮、骨の可動域……相手の身体構造を把握し、そこから導かれる動きの軌跡。

それを、看破と重ね合わせる。


「うおおああああああっ!!」

ブラムが雄叫びを上げ、盾を叩きつけるように踏み込み、同時に木剣を振り下ろす。

巨大な壁のような圧力が迫る――その瞬間。


予測される攻撃の軌跡が、赤い線となって視界に浮かんだ。

線は一本ではない。ブラムの後方から放たれた矢の軌道が二筋、鮮明に浮かび上がっていた。


「――っ!」


体が勝手に動いた。

一歩退き、盾の縁をすり抜けながら頭をわずかに傾ける。一本目の矢が耳元を掠めて通過。

続けざまに二本目――腰をひねってかわすと、矢は頬を掠めることなく背後へ消えていった。


息を吐く間もなく、目の前に赤い線が走る。

ブラムの木剣が振り下ろされる軌道。


その線をなぞるように体をずらし、斬撃を紙一重で避ける。

同時に踏み込み、木剣の切っ先をブラムの頭部へ突き込む――寸前で止める。


「なっ……!」

ブラムの驚愕の声が響いた。だが、そこで力が尽きた。


頭が焼け付くように熱を持ち、視界が揺らぐ。

「うっ……」

膝が崩れ、俺はその場に倒れ込んだ。

頭が焼け付くように熱を持ち、視界が揺らぐ。

「うっ……」

膝が崩れ、俺はその場に倒れ込んだ。


「ユウタさん!」

駆け寄るミリアの声が耳に届く。


「……今のは……」

イレーネが目を細め、俺を見下ろした。

「ほんの一瞬だけど、攻撃を先に読んでいたね」


地面に手をつきながら、荒い息を吐く。

看破と構造理解の組み合わせによって、相手の動きを先に読む感覚を掴んだ。

だが今の俺には、とても長くは保てなかった。


「ユウタさん、今のすごかったです! すごいすごい!」

ミリアがぱあっと顔を輝かせ、両手を胸の前でぱたぱたと振りながら俺を覗き込む。

金色の瞳が期待と喜びで揺れていて、その勢いに押されて思わず苦笑した。


「……いや、偶然だ。次はどうなるかわからない」

「でも、ちゃんと読んでかわしてました! 絶対偶然じゃないです!」


興奮気味に言い切る彼女の言葉に、イレーネが肩をすくめて笑った。

「うん、あの一瞬は確かに本物だったよ。目の動きが変わってた」


カイルが短く頷き、低い声でぽつりと言った。

「最後のは【気配遮断】を最大まで高めて撃ったんだけど……すごいね」


ブラムは腕を組み、しばし黙って俺を見ていたが、やがて重い手で肩を叩いた。

「……悪くない」


「まだ体が追いつかないけどな……」

息を整えながら苦く笑うと、アレンが静かに言った。

「力を持っているかどうかより、それをどう磨くかだ。今日のお前を見て、俺は確信したぞ。ユウタ、お前はもっと強くなる」


熱を帯びた視線を受けて、胸の奥にじんわりとした重みが広がる。

疲労で体は鉛のように重いのに、不思議と心だけは軽くなっていくようだった。


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