表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/33

第1話 召喚

【召喚魔法が発動しました。応じますか?】


▶はい

 いいえ



あの日々を変えたい。

どこかで、そんな衝動が胸の奥に燻っていたのだと思う。


だから俺は、迷わず「はい」を選んだ。


光に呑まれ、意識が反転する。

 


 「──異界の勇者よ。我らの召喚に応じたか」


低く威厳ある声が響いた。


気づけば俺は石造りの広間に立っていた。

薄暗い中、床には赤黒い魔法陣が光を放っている。


周囲には兵士や神官らしき者たちが並び、奥には王と思しき人物が座していた。


注がれる視線は重く、値踏みするようだった。

召喚されたばかりの俺は、ただ立ち尽くすしかなかった。


名前はユウタ・タカシナ。

俺の目の前には“ステータス”と書かれた半透明の板が浮かんでいる。



---


ステータス

名前:ユウタ・タカシナ

スキル:

 ・弱点特効

 ・看破

 ・構造理解



---


……ちょっと地味じゃないか?


周囲からざわめきが漏れる。

「看破?……鑑定士の劣化ではないか」

「弱点特効?そもそも当てられねば意味はない」

「構造理解?大工を呼んだ覚えはないぞ!」


王は失望の色を隠さなかった。

「……今回の勇者はハズレか。召喚は失敗だ」


玉座に沈んだ低い声が広間に響き渡る。まるで判決を言い渡すかのような重さを帯びて。


神官たちは互いに顔を見合わせ、ため息を飲み込むように肩を落とした。兵士たちはあからさまに表情を曇らせ、鎧の隙間から漏れる視線が、俺を測るように突き刺さる。


やがて差し出されたのは、刃こぼれしたロングソードと、底が抜けかけた粗末な布袋。

兵士の一人が無言で押しつけてくる。

「せめてもの情けだ」とでも言いたげな態度。そこには憐れみも慈悲もなく、ただ「不要物を廃棄する手続き」のような乾いた仕草だけがあった。


王も神官も、それ以上の言葉を与えることはない。

俺の存在はすでに勇者ではなく、ただの「失敗」として処理されたのだ。



背を押され、俺は城を後にする。

廊下を歩くたびに、すれ違う兵士や侍女の視線が刺さる。

期待と好奇、それが失望と嘲りに変わる瞬間を、俺は嫌というほど感じ取っていた。


──勇者。

召喚の光の中で、その言葉を耳にした時、少しだけ信じてしまった。

自分にも何か意味があるのかもしれない、と。

だが今、その全てが嘘のように剥がれ落ちていく。


扉を抜け、大階段を降りると群衆のざわめきに包まれた。

人々の視線が俺に注がれる。

「これが勇者?」

「いや、失敗だと……」

「ただの異国の男じゃないか」

失望と戸惑いが入り混じったその声が、耳に焼き付く。


俺は俯き、唇を噛んだ。

見返してやりたい気持ちと、どうせ無理だという諦めが胸の中でせめぎ合う。

──俺はただのハズレだ。

ステータスがそう示した。王も、兵士も、街の人間も、みんながそう言った。


それでも。

まだ一度も、この力を試したわけじゃない。

本当に外れかどうか、俺自身が確かめてすらいない。


足元の石畳がやけに重く感じた。

だが歩みを止めれば、群衆の視線に押し潰されそうになる。


ようやく城門が近づいた時、兵士が吐き捨てるように言った。

「ここから先は、お前一人だ」


ギィィ、と門が開き、外の風が頬を撫でた。

振り返れば、そこにあるのは群衆の視線と閉ざされる城門だけ。


胸の奥が空っぽになる。

だがその空虚さの奥で、わずかに燃えるものがあった。


──ハズレだろうと、役立たずだろうと構わない。

この世界が俺を拒むなら、俺は俺のやり方で生き延びてやる。


そう心に刻みながら、俺は異世界の大地へ足を踏み出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ