番外編3 争奪戦
最終話手前の話です
「ハヤト。オメェ、うちに入るか」
バルバドス宇宙海賊団、宴会の席。
ゼルハム船長の放った言葉から、隼斗争奪戦がはじまった。
レンジャー部隊本部を襲撃、ドルネンファミリー幹部二人の捕縛という結果をもって地球での活動は一旦の区切りがついた。
そのねぎらいの宴で、朝からずっとバルバドス宇宙海賊団本船内はお祭り騒ぎだ。誰も彼もが酒を手に持って、思い思いに楽しんでいる。
そこに隼斗も呼ばれ、海賊たちに混ざって朝から楽しく騒いでいた。そこで突然のゼルハム船長の言葉。
まわりでそれを聞いていた者たちは、その動きを止めた。
そして。
「では!! ハヤトくんは我が諜報部で預かりましょう!!」
「ふっざけんじゃないわよ!!!」
諜報部門トップ、カルーダが一番に名乗りを上げ、それを絶対に阻止したいシェリルとのガチンコバトルが始まった。
なにせシェリルは元諜報部門の一員。どんなことをするのかなんてわかっているし、それを恋人にやらせるのは絶対に御免だ。
「ハヤトくんならば調査・潜入も完璧にこなせるでしょうし、ちょっと教育すれば完っっ璧な諜報員になれるはずです!! この顔ならハニートラップだっていける!」
「私の男になにさせようとしてんの!?」
「現にこの船の女性たちからもこの顔は好評ですよ。操舵部門のカリンさんとか熱をあげてました」
「わかったちょっとシメてくる」
シェリルが剣を抜いた。このシェリル様の所有物に手を出そうなんて百億光年早いということを身をもって分からせねばならない。
「いや、あの人はそういうのじゃない。技術部門のアバさんと結婚するらしいし」
「マジか。知らなかったぜ」
「ハヤトはなんでそんなコト知ってるの」
「意外〜。カリンちゃん、技術部だったらショーンとか好きそうなのに〜」
「ショーンさんは街に恋人がいる。花屋の娘さん」
「お主、我らよりこの船の人間関係詳しいな?」
まだ船に出入りするようになって日が浅いと言うのに、幹部たちより内情を知っているのではないだろうか。カルーダがキラキラした瞳で隼斗をロックオンしている。
「ウチも人員募集中だよ。人事とかできそうね」
事務部門のマリアンヌが手を上げた。事務を一手に引き受けるこの部門は万年人不足に悩んでいる。なにせ気性の荒いものばかりで皆机に座っていられないので。
「ちなみにハヤトくんはお金の計算とか得意?」
「まぁそれなりに……喫茶店の事務処理は俺が。備品の管理も」
「あのマスターは働いてないの?」
「あ、大学は経済学部で」
「なにゆえ喫茶店と治安部隊に所属しているのだお主は」
「ますます欲しい人材じゃない」
マリアンヌも、最初は冗談のつもりだったのに引く気がなくなった。真面目そうだしデスクに座っていられるだろうし、事務要員にぴったり。
「食品部はどうだ? 喫茶店に勤めていたんだろう?」
次に声をあげたのは、船内バーのマスターであるゼレンだ。バーの店主をしているが、船内の厨房のまとめ役でもある。
「酒以外も一応取り扱っているが、専門外でな。酒を飲まない者たちのためにバーの隣にカフェを作ろうと思っていたところなんだ」
「ハヤトは料理もできるのよ。そのブジーが食べてるやつとか」
「なんだと……!?」
シェリルの言葉にブジーが震えた。
実は大の甘党であるブジー、朝からずっとケーキだのクッキーだの食べ続けていた。今も、シャンパングラスに美しく盛り付けられたパフェという地球のスイーツを堪能していたところだ。
ちなみにこれは見た目の美しさもあって女性陣に大人気だった。シェリルもひとつ貰って食べている。
「お主、そんな特技が……!」
「気に入ってくれたならよかった。あとあそこのプリンとケーキとクレープと……」
「シェフ、最高のスイーツ感謝する。とても美味であった」
ブジーのなかで隼斗はシェフになった。
「それからサンドイッチとチャーハンとカレーと唐揚げと……」
「ねぇそれ私知らないんだけど」
「見慣れねぇモンがあると思ったらお前か」
「おいしかったよ〜」
シェリルの知らないところで、いろいろと作っていたらしい。どこにそんな時間があったのか。
「料理得意ならさぁ、手先器用そうだよね〜。技術部門くる〜?」
ザバシュが悪ノリを始めた。技術部門出身のザバシュは幹部になった今でも度々顔を出しては機械をいじっている。技術部門の人事決定権は特に持っていないが、なんか面白そうだったので。
「そこまで器用というわけではないが……」
「あ、ハヤト! この前直してくれた時計、調子いいぜ! ありがとな!」
「ああ、それはよかった」
そこへちょうど通りかかった戦闘員が隼斗に声をかけた。隼斗はなんでもないように言っているが、時計の修理とは?
「待って本当に器用なタイプ〜? 時計のほかにどんなものイジれるの〜?」
「他は……大型自動二輪の改造ならしたことがあるが」
「なんで?」
「昔観ていたTVショーのヒーローに憧れて」
これ、と隼斗が端末を操作して写真を表示する。改造前と後で全然違う。自動二輪の後ろのガレージにはたくさんの道具や部品。
「ゴーラム〜! ちょっと来て〜!!」
「こら! ライバル増やさないでくださいよ!」
「指が細くて器用なヒューマン型は貴重なんだよ〜!!」
ザバシュに呼びつけられた技術部門長が端末の写真を確認して即参戦した。判断が早い。エンジンまでいじっているなんて聞いたら是が非でも欲しい。
「いや、普通に戦闘員でいいじゃねぇか」
ドバスが冷静に当然のことを言った。
そもそも隼斗はレンジャー部隊で戦闘には慣れているし、強いのは今まで戦ってきて知っている。
「実力は分かってるし、コイツならすぐ部隊長だろ。反対も出ねぇよ。どういう訳だかこの短期間で人望もできてるしよ」
「それはそうなんだけど〜」
「普通すぎてな」
「ドバスってこういう時つまらないわよね」
「シェリル、お前が一番どうしたいのかが分からねぇよ」
「諜報以外ならどこでも」
ドバスの意見は普通すぎて今は無視された。
それが一番常識的で、一番隼斗の能力が生きる事は誰もが分かっているので。
そのうちに、騒ぎを聞きつけた他の部門まで参戦してきて収集がつかなくなってきた。
「私の男が有能すぎて困る」
「そんな事はないと思うんだが」
「お主、逆に何かできぬことはあるのか」
「……面白いことしろ、とかは苦手だな」
「あ〜、わかる〜。できなさそうだよね〜」
「手品くらいしか持ちネタがない」
「できるじゃねぇか」
本当に、何ができないんだこの男。
「ハヤト。あいつらの事は無視していいからな」
ゼルハム船長が日本酒を飲みながら言う。それは隼斗が今日の宴会のため、船長への手土産にと持ってきたものだ。きちんとした大人の気遣いまでできる男である。
「俺達はもうしばらくチキュウにいる。ゆっくり考えりゃいい」
「……はい」
そんなことを言いながらも、ゼルハム船長としては隼斗にぜひとも海賊団に入って欲しいと思っている。
だってこんなにも有能で、仕事ができて、それなりに強くて、真面目で、誠実な男。今までのシェリルの歴代彼氏たちとは天と地どころか天の川銀河の両岸くらいの差がある。
自分たちが海賊団だということは高い高い棚の上に置いておくことにしても、あの素行の悪い過去の男どもに宇宙一可愛い愛娘をくれてやるなど考えられなかった。
そこに飛び込んできた、超優良物件。
父親としてこれを逃す手はない。娘の彼氏としては理想中の理想。どこの部門で採用するかなんてぶっちゃけどうだっていい。とにかく船に乗せる。なんとしてでも連れて帰る。
そんな海賊たちの思惑がぶつかり合う宴会は、夜通し続いて終わる気配がない。
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これにて本当におしまい。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
重ねてのお願いになりまして大変恐縮ですが、
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