25 巨人
シェリルは一番座り心地の良さそうな椅子を引っ張って、部屋の隅で戦闘を眺めていた。
足元には捕虜となったレンジャー部隊司令部の非戦闘員たち。ほとんどが非力そうな女で、大人しく座っている。こちらも抵抗しない限りは何もするつもりはない。むこうで行われている乱戦から時々飛んでくるものを弾き落としながら、部屋全体を見渡す。
「あ、あの……」
「なに?」
「私たちはこれから、どうなるのでしょうか……」
「自分のこれまでの行いに後ろめたいことがなければ、すぐに家に帰れるはずよ」
捕虜の一人が口を開く。その女は釈然としない様子で首をかしげた。
それはそうだろう、突然押し入って乱暴を働いている海賊が言うようなセリフではない。だからこの女は白。何も知らないまま働いていた者だろう。ただ、その後ろで聞き耳を立て、顔色を悪くしたそっちの女は。
「尋問は私たち海賊の仕事じゃないから安心していい」
それは日本宇宙軍に任せることになっている。だからといって、優しくしてもらえる保証はどこにもないが。
その日本宇宙軍からは先程ドルネンファミリー幹部リタ・ウォンカの捕縛完了の連絡がきている。
ザバシュからはまだ何の連絡もきていないが、応援要請もきていないので大丈夫だろう。
こちらも、もうすぐ終わる。
そもそも最大の警戒対象だったレンジャー部隊は、隼斗が変身装置を奪った時点で取るに足らない存在に成り下がっている。それは部隊長たちが軽々と制圧していた。それから、レンジャーの赤を隼斗自身が狩っていたのをシェリルは見ている。なにか話をしていたのも。
その他、司令部の非戦闘員で暴れた者もいた。きっとドルネンファミリーとつながりのある人間だろうが、こちらも危なげなく無力化済みだ。
今はそれらをまとめて縛って、部屋の真ん中に集めているところだ。
それはともかく、さっきから部下たちが「姐さん姐さん!」と立てた武功を報告しに来る。言われなくてもちゃんと見ているが、嬉しそうに頭をこちらに傾けてくるので撫でながらよくやったと褒めてやる。
なぜかその列に隼斗も混ざっていたが、まあいいだろう。
もちろん、手荒なまねをせずに非戦闘員を説得し投降させた者、粛々と捕虜の整理と監視をしていた者にもねぎらいの言葉をかける。そうするとやっぱりなぜか頭を差し出してくるのでこちらも撫でておく。
部下の仕事ぶりを評価するのは幹部たるシェリルの仕事だが、それに頭を撫でるのは含まれているのだろうか。
「さて」
部下の列が途切れたところで、もう一度部屋を見渡す。
組織の人間は全員捕縛済み。部屋の中は荒れているが、機材の類は無事。こちらも予定通り。バルバドス海賊団の損害は軽症が数名のみ。
「こちらシェリル。レンジャー部隊本部の制圧を完了」
報告を各所に一斉送信し、これで一応の任務は完了した。あとは日本宇宙軍に捕虜を引き渡すまで、ここで待つだけだ。大した労力は使っていないが、やれやれと再び椅子に腰を下ろす。
捕虜の見張りとして数人を残してあとは先に本船に帰しても問題ないだろう。それから他のフロアの捕虜も確認して、とこれからの作業を頭の中でリストアップしていた時だった。
建物が揺れた。
「地震かぁ?」
「にしては長いわね」
ごごご、という地響きとともに、もう二十秒近く揺れている。地球ではこれが一般的か、と隼斗に問うが違うとの返答。では、これは一体。
『本部より全員。本部横の建物が動いている』
「はぁ?」
シェリルは思わず聞き返したが、通信機からの声も戸惑っていた。動くとはいったいどういうことだ。
「あ、あれ!」
部下の一人が壁のモニターの一つを指さした。シェリルたちのいる本部建物を映した監視カメラの映像だ。
そこには確かに、建設中のはずの建物が少しずつ縦に割れていく様子が映し出されていた。
「あれ、中央モニターに変更して」
「え、えっと、」
「早く」
先程シェリルに話しかけてきた捕虜の女を立たせ、中央に陣取る巨大なモニターに大写しにさせる。その間、他の捕虜に何が起こっているのか聞いても答えが得られなかった。隼斗も、他のレンジャー部隊も同様だ。彼らでさえ、何が起こっているのかと戸惑っている。
「何だ……?」
割れて開いていくビルは、中が空洞のようだった。ビルに見せかけた巨大な…………格納庫?
「本部、見えてるわね? 戦闘艇を緊急展開」
『本部了解、小型戦闘艇を五機投入。本船も戦闘配置につく』
中から見えてきたのは異様な人型戦闘機だった。
頭部や腹部、腕などパーツすべて色が違う。まるで別個体を無理やり合体させたようなつぎはぎに見える。かなりずんぐりむっくりで、関節の可動域は狭そう。
しかし、その姿も異様だが何よりその大きさだ。
他星でよく見る一般的な人型戦闘機は十メートル前後のものが多いが、たぶんその三倍以上はあるだろう。
それが、格納庫の中から一歩踏み出した。




