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24 後悔 side:HAYATO



 隼斗は受け止めた刃を押し返して思った。

 弱くなったな、と。


「ぐっ…………!」


 赤いエンブレムのついた剣、そこから来る剣戟はこんなにも軽かっただろうか。

 そんなはずない。そんなはずなかった。なのに。


「貴様、どんな卑怯な手を使った……!」

「それは、お前たちだろう」


 あの薬物に頼って鍛錬を怠ったか、薬の副作用で飲んでいないと体が動かないのか、その両方か。

 隼斗とレッド(龍我)の間には、今や明確な実力差がある。

 それが、とても悲しかった。


「俺はいつも通り。毎日鍛錬している、それだけだ」

 

 龍我たちが薬に体を蝕まれている間、隼斗はバルバドス宇宙海賊団で戦闘員に混ざって訓練をさせてもらっていた。

 自分に実力が足りないのを痛いくらいに実感したから。そのせいで、シェリーに怪我をさせてしまった。


 強くなりたい。もっと、もっと。

 彼女に並び立てるほどに、強く。


 海賊団の人たちは、そんな隼斗を驚くほど友好的に迎え入れてくれた。敵対勢力から来ているのに、一緒に訓練しよう、手合わせしようと誘ってくれた。良いところは正当に評価され、駄目なところや変な癖は厳しく指摘された。休憩の合間にそれぞれの身の上話を聞かせてくれて、いろいろな経歴の持ち主がいることを知った。


 楽しかった。嬉しかった。

 仲間というのはこういうものかと感心した。


 本当は、レンジャー部隊の皆とこんな関係になりたかった。


 たくさんの感情が流れていく。

 それを剣にのせて振り抜いた。龍我がよろめく。それでも、剣を手放さないのは流石だ。


「どうして、」

「……真実を知ったから。もうここにはいられない」


 バルバドス宇宙海賊団に教えてもらったのは、耳を覆いたくなるような真実だった。

 自分の所属している組織の上層部が宇宙マフィアだったなど、考えもしなかった。武器の密輸、密造はよくよく考えてみれば思い当たることがある。違法薬物は、知っている。

 一番堪えたのは、人身売買の事実だった。怪我を負った民間人は病院に搬送され治療をうけていると信じていた。疑いもしなかった。なのに。


「……嘘だ」

「嘘じゃない。俺達は、人身売買に加担させられていたんだ。……過去のお前たちと同じような人間を、俺達がつくりだしていた」


 こんどこそ、龍我は剣を取り落とした。

 

 龍我の過去は知っている。誘拐され、奴隷として売り払われそうになったところを助けられて。助けてくれた組織に忠誠を誓い、悪と呼ばれる者たちを言われるがままに滅してきた。


 真実は。

 恩を売り洗脳して、ていの良い操り人形として使われ続けていただけだ。たいした犯罪を犯していない者を派手な戦闘で捕縛し、被害を拡大させて、擦り傷を負った民間人を治療と称して連れ去り奴隷市場に放り込む、その手助けをずっと。


「――――知らない、そんなのは……知らなかったんだ…………」

「俺もだよ」


 隼斗だって同じだ。

 知らなかった。知ろうとしなかった。

 以前までは。


「……すまない、龍我」


 きちんと話せばよかった。

 そうすれば、みんなで正しい方へと歩き出せたかもしれなかったのに。そうすれば、薬物なんかでこんなにボロボロになることもなかったかもしれないのに。そうすれば、


「ごめんな……」


 もっとずっと前から、信頼関係を築けていれば、こんなことにはならなかったはずなのに。

 理解されない、理解できない。そうやって諦めて、何もしなかった結果がこれだ。


 後悔は、尽きることはない。






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