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19 裏切り side:HAYATO



 あの後、自分がどうやって帰ったのかも隼斗はよく覚えていない。

 隼斗の横を海賊の二人が焦った様子ですり抜けていった、それだけが記録画像のように頭にある。


 

 それでも、隼斗は今日もレンジャー部隊の一員として活動している。


 あの時、「ここを抜けたら」なんて話していたというのにまだレンジャー部隊にいる理由。それは今辞めてしまったら繋がりが絶たれてしまうからだ。バルバドス宇宙海賊団との繋がりが、隼斗にはどうしても必要なのだ。

 例えば、それをこうやって使うために。


「シェリー……いや、シェリルは無事だろうか」

「はぁ〜?」


 海賊団とのいつもの戦いの後、彼らのあとを尾行した隼斗は人目につかない路地裏で彼らに接触した。もちろん、隼斗の持っている通信機は戦闘中の事故を装って自ら破壊してある。


「な〜んで敵にそんなコト教えなきゃいけないワケ〜?」

「テメェが気にするような事か?」


 ザバシュと、怪我から復帰したらしいドバスに睨まれる。魔神型の異星人、しかも宇宙海賊の幹部。そんな彼らから受ける圧は凄いが、隼斗だって引くわけにいかない。


「――……まぁ待てふたりとも」


 そこに静かな声が割って入った。ふわふわと宙に浮いている亡霊のような見た目のブジーだ。布をかぶっているが、その中には闇しかないように見える。


「シェリルが会っていた男というのはそいつだ」

「はぁ〜!?」

「あ? あー……成程な」

「いや、ちょ、ブジー知ってたの〜!?」

「偶然見ただけだ。 ――緑の。シェリルは無事だ。怪我をしてまだ療養中だが」

「……っそうか、…………よかった……」


 安心して足から力が抜けそうになるのをなんとかこらえた。


「彼女に怪我をさせてしまったのは、俺の実力不足が招いたことだ。本当に申し訳ない」


 頭を下げる。これは隼斗の本心だ。けれど、彼らはその行動に驚いたようだった。


「えぇ〜……?」

「ンなのは初めて言われたな」

「海賊相手に、誠実な事だな」

「……それは以前、彼女にも同じ事を言われた」


 あの時のシェリーもそうだった。隼斗にとっては当然の言葉と行動だが、やっぱり彼らにとっては奇妙なことに思えるらしい。


「シェリルの力不足もあったろう。お主だけのせいではない」

「ザバシュが黄色を取り逃がしたのが悪いって俺は聞いたぜ?」

「ちょ、っも〜〜! 悪かったってば〜〜!!」


 わいわい言い合う彼らに、隼斗は「いいな」と思う。これだけで仲がいいのがわかる。それが素直に羨ましい。

 隼斗は、仲間とこういう関係を築くことができなかったから。


「ところで、聞きたいんだが。アンタたちが地球に来た目的は何だ?」


 ぴたり、海賊たちのおしゃべりが止まった。全員の視線がつきささる。

 それに苦笑して、隼斗は顔を隠していたヘルメットを取った。パワースーツをオフにする。ぱしゅんと軽い音。一瞬で体から外れた緑色は収縮して手のひらサイズの部隊エンブレムに収まった。

 それをポイと眼の前のドバスに放り投げる。


「おいおい」


 いいのか、という疑問には肩をすくめるだけで答えた。


「通信と位置情報は切った……というか、さっき壊した。調べてもらって構わない」

「あ〜…………うん、確かに何も飛んでないね〜」


 小型端末を操作したザバシュがすぐに顔を上げた。さすが異星の機会は性能がいい。いや、宇宙海賊の技術力だろうか。


「それで。アンタたちの目的は? 地球の土地か、エネルギー? 企業の買収か、人間か。……それとも、レンジャー部隊(うち)か」

「お主の中で答えが出ているもの、我らに問う必要があるか?」

「俺は何も知らない。知りたくても、その術がない」

「そうであろうな」


 組織の中の自分も、一個人である自分も、あまりに無力だという事を隼斗は理解している。以前の隼斗であれば、そんなものかと流してしまっていただろう。けれど、今は。


「例えば、本当にお主らの組織に目的があったとして。それでどうする?」

「アンタ達に協力しよう」


 即座に言い切る。彼らは面食らったようにたじろいだ。三人とも表情はよくわからないが。


「裏切るってことか?」

「俺はそこまで小綺麗な人間じゃない。もう組織に愛想が尽きたんだ」

「我らとしては助かるが。罠の可能性も……お主ならば無いだろう」

「……信用してくれるのか?」

「シェリル通してこっちに情報垂れ流してたの、どこのどいつだと思ってんの〜?」


 なるほど、それもそうかと隼斗は笑った。自分がしていたのは立派な情報漏洩だったのだと、その事実に今さら気がついた。しかも、敵対している相手への、だ。


「それで……我らに協力するとして、お主の利は何だ」

「真実が知りたい」


 隼斗の力では知り得ない情報が欲しい。

 レンジャー部隊の本当の顔を。そこに所属していた自分が、知らぬ間にしてしまっていた何かを。知らないという罪の大きさを、知りたいと願う。

 そして、今から自分にできることを探すのだ。


 

「それから、できれば……シェリルに会わせてくれないか」






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