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18 またね



「こちらも大丈夫。――ええ、作戦を開始して」


 ピ、と通信を切断。シェリルの長い銀髪を少し冷たい風が撫でていった。今夜も星は見えない。


「やつら、来るかな〜」


 ブジーとザバシュが屋上の縁に立って街を見渡している。煌々と明かりの灯る東京の街。夜、高層ビルの屋上にいるというのに視界に困ることはない。


「来てもらわないと困る」


 でなければ、作戦が成り立たない。先日ドバスがレンジャー部隊にやられた、その報復をしなければならないのだから。

 当のドバスはまだ療養中だが元気に生きている。しかし、こちらは海賊。やられっぱなしでナメられるわけにはいかない。倍以上にして借りを返す必要がある。

 そのため、事前に特定していたドルネンファミリーの資金源の一つを潰すことにした。奴らの力を削ぐのと、「お前らの情報は掴んでいるぞ」という脅しだ。


 そちらは別動部隊がやる手筈だ。シェリルたちはレンジャー部隊がそちらに行かないように足止めをする。

 本来であれば、ブジー、ザバシュ、シェリルのうちの一人でよかった仕事。けれど、先日の一件から全員で行動することになった。

 あの薬を使われると厄介だ。威力も増すが、それ以上に何をしでかすかわかったものではない。


「――――――来たな」


 ブジーの言葉に振り返る。赤色灯が照らす高層ビルの屋上、5つの影が浮かび上がる。


「こんばんわ〜。こんな時間まで労働なんて、ご苦労さま〜」


 なんでもない風にザバシュがへらりと声をかける。けれど、彼らから返ってきたのは無言。いつもならば赤か黄色あたりが挑発に乗ってくるのに。


「……無視ぃ? やなかんじ〜」


 本当に、とシェリルは思う。どんな心境の変化か、それとも薬の影響か。前者だったらマシ。

 隼斗は大丈夫だろうかと視線を投げるが、この距離ではわからない。


 かしゃん、と相手が武器を抜いた。やはり無言で。あわせてシェリルたちも各々武器をとる。ちらりと視線を交わして、二人は別々の方向に散開していった。ブジーが青とピンク、ザバシュが赤と黄色を引き連れて、隣のビルへと飛び移っていく。この場に残ったのは、シェリルと緑のみ。


「あの薬は、」

「麻薬だった。飲まなくて正解ね」


 緑の剣がきらめく。赤い光を弾いて、まるで血をまとっているかのように。シェリルの剣も同じだ。白銀の美しい剣は人口の光で染まっている。

 

「そうか……。あいつらは今日も飲んでるみたいだ。結局俺だけが助かってしまった」

「それでいい。こういう時は生き残るために自分を優先すべき」

「俺も、いつまで持つかな」


 上段から押され、押し返す。弾いて、返す刀で切りつける。防がれる。そしてまた上から。

 攻撃が単調なのは演技だろう。隼斗はこんなつまらない剣筋でなはいのに。それがシェリルには腹立たしくて、悲しい。


「なぁ、もしも俺が抜けたらアンタたちは……」

「は?」


 抜ける。レンジャー部隊を、隼斗が。

 確かに今この状態で続けるのは危険すぎる。けれど、ヒーローになりたかったのだと言っていたのに。その夢は。


 そんな言葉が喉まで出かかって、けれど音にはならなかった。


 緑の肩越し、目に入った黄色い強化スーツ。それがエネルギー銃の銃口をこちらに向けて、光が、


「――――ハヤトっ!!」


 腕を掴んで真横に思い切り引く。シェリルの視界が開けた。緑がつんのめって二、三歩たたらを踏んだのが視界の隅に映る。正面、光がぎゅるりと渦をまく。


「くっ……!」


 パリン、と防衛システムの弾け飛ぶ音。エネルギー弾の威力は削げなかった。そもそも期待などしていない。

 真横に構えた剣で光を受け止める。重い。どろりとしたエネルギーは剣の根元に留まったまま滑っていかない。

 弾き返せない。斬れない。受け流せない。

 カッといっそう強く光ったエネルギーが爆発する。


「―――――― !」


 ドォンと耳をつんざく爆発音。シェリルも近くにいた緑も吹き飛ばされた。えぐられたコンクリート、もうもうと立ち込める煙。シェリルの剣が音を立てて落ちる。


「……っ、」


 屋上に叩きつけられたシェリルは立ち上がることができずにいる。ぐるぐると世界が回る。頭か、いや、耳をやられたらしい。音が聞こえない。まずい。この状況で第二波を撃たれたら今度こそなすすべがない。

 煙が晴れないうちに回復しようと呼吸を整える。口の中の鉄臭さと全身を駆け巡る痛みは無視。とにかく、立たねば。


 さぁと風が吹いて、煙が消え去っていく。

 エネルギー銃を手にして肩で息をしている黄色。そして、シェリルとの間に立ち、黄色と対峙している緑。

 フルフェイスのヘルメットは半分吹き飛んで、隼斗の顔の右半分が見えてしまっていた。


「何をするんだイエロー!」

「うるさい!」

 

 シェリルの耳には二人の声はまだ届かない。けれど、少しずつ回復している。まだ、もう少し。隼斗が時間を稼いでいるうちに、早く。


「前から怪しいと思ってたんだよ……! グリーンさ、裏切るつもりなんでしょ」


 黄色が喚く。その大声がだんだん聞こえるようになってきた。酸素を体中に巡らせるように、深く深く息を吸う。少しずつ視界と意識がクリアになっていく。

 

「お前も悪いやつなんだ! 悪いやつはみんな死んじゃえばいいんだ!」

「おいやめろ! お前が死ぬぞ!」

 

 黄色が再びエネルギー銃を構える。緑の制止も聞く耳は持たない。シェリルは右手を動かした。大丈夫、そのくらいなら動く。めまいも消えている。

 エネルギー銃の独特な甲高い音も、もう聞こえる。


「――――ギャッ!?」


 黄色が崩れ落ちた。緑――――隼斗が割れたヘルメットから驚いた顔をのぞかせて振り向く。

 シェリルの手には電気銃。小型だが、力を最大にすれば大型の動物さえ昏倒させられる威力はある。黄色は、まぁ大丈夫だろう。出力は抑えたので。

 それよりも、小さな電気銃でさえ持っているのも億劫になったシェリルはそれをカラリと落とした。立ち上がる気力はまだない。



 

 そこに歩み寄ってきた隼斗が、割れたヘルメットを脱ぎ捨てた。顔がすべて顕になる。

 額が切れて出血はしているけれど、シェリルのよく知った顔。いつもの通り茶色の髪を後ろで束ねている。涼し気な目元も、すっと通った鼻筋も。

 黒いシールドの雲に隠れていた星明かりが、やっと見えた。


「シェリー……」

「―――― なに?」


 もう隠そうとは思わなかった。

 もともと隠す理由は特になかったはずだ。ただ少しだけ、この清廉な人に海賊だと明かすのが躊躇われただけで。


 隼斗は何か言いかけて、でもその口を閉じて、もう一度開いて。結局、何も言葉ならないまま。

 まぁそうかもしれない、とシェリルは思う。

 あの時のシェリルもそうだった。隼斗に助けられた時、事実を受け止めるのに随分と時間がかかった。

 そういえば、この状況はあの時とまるで逆で、


―――――― ドゴッ


 鈍い音がして衝撃が二人を襲った。

 シェリルの体が宙に浮く。驚きに見開いた目に映ったのは、エネルギー銃を手に今度こそ気絶している黄色。これには流石に驚きを隠せない。たいした根性だ。


(しまった、)


 黄色に心の中で称賛を送っている場合ではなかった。

 シェリルの体は、屋上から弾き出されている。いつもならば体を捻って回避できるが、今はまだそこまで回復していない。

 落ちる。


「シェリー!!」


 視界に緑色が飛び込んでくる。隼斗が伸ばした手は、なんとかシェリルの腕を掴んだ。それだけを命綱に、落下が止まる。足をかけるようなところもないから、完全に宙ぶらりんだ。


「ハヤト、離して」

「……何か手はあるのか」

「無いわけじゃない」

「確率は」

「五分」

「駄目だ」


 とはいえ、隼人もシェリル同様満身創痍のはずだ。ヘルメットが砕けるほどの衝撃を受けて、無事なはずはない。現に額は切れて出血しているし、汗がひどい。

 以前、大人二人を軽々持ち上げて救助したあの力を発揮できていないということは、強化スーツも機能を停止しているのだろう。怪我をしている隼斗の力だけでシェリルを引き上げるのは無理だ。


 それに、隼斗のいる場所。

 エネルギー銃の着弾でヒビが入っている。このままだと、床もろとも落下する危険がある。


「もしもそこが崩れたら、大変な被害が出るわ」


 こんな高層ビルの屋上が崩れたら、どうなるか。地上の被害規模が大きすぎる。死者だって出るはずだ。


「そんなの、」

「駄目よ」


 隼人の言葉を遮る。


「貴方のこれまでを否定するような事を言っては駄目」


 それだけは、言わせたくなかった。

 ヒーローにはヒーローのままいてほしい。



「…………さぁ、そろそろ離してちょうだい」


 百メートルを超す高さ、無事でいられるかは半々。賭け事としては、マァ高確率だろう。

 天に運を任せるなんて、シェリルの流儀に反する。

 けれど、別にすべてが運任せではない。きちんと策があってのことだ。運と、タイミングと、判断、動作、システム運用。そのすべてが完璧でなければ地面に打ち付けられて死ぬ、ただそれだけ。


 それよりも、隼斗のほうがそろそろ限界だろうから。二人してここから落下するのが一番生存確率が低いのだ。

 

「私は大丈夫よ。たぶんね」


 シェリルだって、こんな賭けに負けるつもりはない。


 風が吹く。艶めく銀の髪が、鮮やかな紺色のマントが揺れる。ここでは微かな風でも、落下するにつれて強くなっていくであろうビル風。


 一呼吸。隼斗の手を振り払った。


「またね」

「シェリー!!」


 重力にまかせて落下する。

 隼斗の姿はすぐに見えなくなっていく。

 まるで、夜空の小さな星のよう。







□□□□□

どうしてもマスクオフさせたかったと供述しており。


最終回のマスクオフ、どう考えても不自然じゃないですか。

でも大泣きしますよね。第一話であんなちゃらんぽらんだった若者たちが、1年間必死に全力で地球を守って立派なヒーローになった顔ですよ。号泣です。


ところで、高いところからご退場された悪役で一番印象に残ってるのはHUGっとプリキュアのパップル姐さんなんですけど(もはや戦隊モノでもない)(あ、ネタバレするんでHUGプリ観ようかなと思う人はこの先読まないでね)


不倫相手を年下の女に寝取られたショックで自殺(に近い)っていう……そしてそのあと何故かそこにいた初代のブラックさんホワイトさんにフルボッコにされるっていう……

あのときはプリキュアって人の心無いんか、と思いましたね。


HUGプリ、いいですよね。一番好きなプリキュアです。

人間関係がドロドロすぎて。昼ドラみたいで。

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