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1 宇宙海賊




『――――それでは次のニュースです。近年、他惑星からの観光客や移住者が増加しています。それに比例し、犯罪件数が右肩上がりに増えており対策が急がれています。各都市の防衛組織が対処をしていますが――――』



 昼のニュースだろう。壁に投影するプロジェクター式といういささか旧式の情報端末では、かっちりとした服装の男が真面目な顔で原稿を読み上げている。

 その音声は右から左に聞き流し、画面に写る女の服装に目をやり、次いでまわりを見渡す。

 宇宙船港で働く地球人を一通り観察して、なるほどそういう感じねと女、シェリルは頷いた。


「次の方、どうぞ。……はい、お預かりします」


 身分証と滞在許可証を入星管理監にアクセス許可。ここでの質問は、どこの星でもだいたい同じだ。


「目的は?」

「ビジネス。期間は三ヶ月。延長するようならまた申請するわ」

「滞在場所は?」

「トーキョーの異星人向けホテル」


 一通りの問答を終え、電子書類が認証される。アクセス終了。


「ねぇ、質問。ここの星でこの格好は不適合?」

「個人的にはとても素敵だと思います。……けれど、そうですね。少し刺激的だと思われることがあるかもしれません。この国では特に」

「そう。アドバイスをありがとう」

「それでは、よい滞在を」


 地球人がシェリルと同じよくあるヒューマン型だと聞いたので、ついいつもの服装で来てしまった。白のビキニアーマーに紺色のマント。母星では一般的だけれど。

 確かに周りからチラチラと視線を飛ばされている。今は目立つのも面倒なので、どこかで服を調達することにしよう。




 

「……して、着心地は?」

「ヒラヒラして鬱陶しいわ」


 一旦母船に戻ったシェリルは、仲間からの好奇の視線に晒されていた。

 

 あの後、宇宙船港内のショッピングモールで地球の服を手に入れて着替えてはみたものの、ふわふわした丈の長いスカートは足にまとわりついてきてどうにも歩きにくい。

 次に購入するときは、せめてもっとタイトなものを選ぼうと心に決めた。地球には長期間滞在する予定だから、どうせ着替えが必要だし。


「ヒューマン型はそういうの大変だよねぇ~」

「服なんか気にしなきゃいいのにな!」


 シェリルは横から飛んできたヤジを無視した。

 体表面を出す星、出さない星は様々あるけれど、同じヒューマン型だからこそこういう問題が起こるものだ。アニマル型やモンスター型がどれだけ体表面を晒していようと、ヒューマン型にとってはさほど気にならないのと同じように。

 ちなみにヤジを飛ばした二人は魔人型。彼らには服を着るという行為が基本的にないらしい。外装は服っぽいものを纏っているような見た目をしているけれど、彼が違う格好をしているところを見たことがない。感触も布ではないし。

 シェリルの隣に座っているのはモンスター型。モンスター型はいろいろいるが、この男はゴーストタイプ。ヒラヒラした布のようなものを被っているが、これが別の布になっているところをシェリルは見たことがないので、こちらも服という感覚ではないのかもしれない。

 特に興味もないので、シェリルはそれを追求したことがないし、今後もする予定がないけれど。




「――――おう、シェリル。ご苦労だったな」

「パパ」

  

 シュン、と音を立てて開いたゲートから、魔人型の男が入ってきた。

 この船『バルバドス宇宙海賊団』の船長、ゼルハムだ。


 二メートルを越える大きな身体に沢山の傷、声が大きく口調も荒い。まさに海賊団の船長を絵に描いたような男を、シェリルはパパと呼んでいる。血の繋がりはない。

 もっとも、ゼルハムを父と呼ぶのはシェリルだけではない。ここにいる他の三人、それどころか海賊団の乗組員はみんな彼を父と慕っている。


「んで? どうだったニホンは」

「問題ない。観光の異星人がそこそこいるから、みんな行っても大丈夫そう」

「やった〜! 遊ぶとこありそうだったぁ〜!?」

「繁華街は多そう」

「パパ、次俺が行ってもいいよねぇ〜?」

「いいが、目的忘れんなよ」

「分かってるって~」


 意気揚々と部屋を出ていった魔人型の男、ザバシュ。

 魔神型の中ではスマートな装飾の少ない外装にチャラチャラとアクセサリーをつけている。とても見目がいいらしいが、魔神型の顔の良し悪しはシェリルにはよくわからない。

 訪れた星でたくさんの友達をつくっては遊び歩いている。


「報告を聞かずに行くようだが、良いのか?」

「別に。今日は瞬間移動用のアンカーを設置しただけだから、大した報告はない」


 呆れた声をあげるのはモンスター型の男、ブジー。

 ゴーストタイプで、被っている布の中には何もない。というよりは、真っ暗闇が蠢いていてよくわからない。それでもシェリルたちと変わらず物を掴むこともできるし飲み食いもする。

 寡黙では無いが、この海賊団の中では静かな方だ。


「それよりシェリル! 地球人の筋肉はどうだった!?」

「知らない」


 ドバスは魔人型。

 ザバシュとは対象的な見上げるほどの巨体で、すべてのパーツが大きい。その大きさに見合うパワーの持ち主だが、直線的で頭を使うことがやや苦手な傾向。要するに脳筋だ。

 ご自慢の筋肉で、数々の星の猛者たちを撃破していく。


 この三人の男たちとシェリルの計四人が、このバルバドス宇宙海賊団の幹部と呼ばれているメンバーだ。とはいえ、それほど規模が大きくもない海賊団なので幹部とはいえ今日のように偵察も雑務もこなす。

 シェリルが瞬間移動用のアンカーを設置したため、母船と地球の行き来が自由になった。これは違法行為なので、バレずに行わなければならないけれど。

 母船は地球のすぐそばに停泊中。ステルス装置で感知されないようにはしている。船を隠すのにちょうど良さそうな衛星――月というらしい――があったが、地球の飛び地として栄えていたので却下された。


「明日から調査を始める。それでいいのよね?」

「ああ。頼んだぜ、子供たち」


 そうして、バルバドス宇宙海賊団の地球での活動が問題なく始まった。

 ―――― かと思ったら。



「ねぇ〜! なんか治安部隊来たんだけどぉ〜!?」


 翌日、意気揚々と出ていったはずのザバシュが母船に駆け込んできた。


「は? 治安部隊?」

「そう、なんかやたらカラフルな強化スーツ着たやつら〜。なんなのアレ〜……」


 ザバシュの話によると、その集団は突然現れ話も聞かずに即戦闘となったらしい。しかも面倒なことに、きちんと相手が"バルバドス宇宙海賊団のザバシュ"であることを知った上で。


「女の子たち、びっくりしてたよ~。ちゃんと逃がしたけどさぁ、怪我してないといいなぁ〜」

「それにしても早ぇな」

「シェリルは偽名で入星したんでしょ〜?」

「そうだけど……ザバシュが見つかったなら私だってバレてるわよ。宇宙船港に小型船置いてきたけど、アクセスしてみる?」

「やめておけ。どうせ押収されている」


 アクセスしたら、そこから逆探知されて母船の居場所がバレる。逆探知の対策はしているし、ステルスを常時展開しながら座標をたびたび変更しているからそれなりに時間がかかると思うが。


「ていうかさ~あの野蛮人たちは俺たちが私掠船だって知らないワケ?」

「バルバドス海賊団のザバシュを知ってて、その船が私掠船だって知らねぇなんてあんのか?」


 そう、このバルバドス海賊団は私掠船だ。

 しかも天の川銀河連合の公認。普通の宇宙海賊とは訳が違う。その辺のゴロツキとして指名手配されている海賊団であれば治安出動して問答無用で戦闘・捕縛はありだが、私掠船にそれをやったら問題だ。しかも、地球だって天の川銀河連合に名を連ねているはずなのに。


「普通はあり得ないでしょうね。でも、情報統制が敷かれているとしたら別」

「我らの尋ね人はやはりニホンにいる、ということか」


 それまで幹部四人の会話を静かに聞いていたゼルハム船長が、ゆっくりと口を開く。


「こんな所までわざわざ来たんだ、奴ら――ドルネンファミリーの尻尾を絶対に掴む。作戦に変更はなしだ。だが、慎重にやれ」


 いいな、と念押しされるまでもなく、四人はそれぞれ頷いた。








□□□□□


連載開始します。よろしくお願いします。

がんばれ〜のきもちでブックマークや☆☆☆☆☆を押してもらえるとたいへん嬉しく思います。



ところで、敵の幹部連中が仲良しだとイイですよね。

まぁ、仲良ししてるところに半年くらい経つと新たな幹部が投入されてギスギスし始めるのが定番なんですけど。

悲しい。

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