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再戦。木島VSホッグ・ノーズ

 まずは距離を開ける!!


 座っていた椅子を投げ飛ばし、わざと壁際へと跳躍する。椅子はなんなく右手の鎌で切り払われたが、その際、踏ん張る為に足を止めざるを得ない。


 そこだッ!!


 両腕から一気に硬化した触腕を伸ばし、顔面と右足、その脛辺りを狙う。避けられることを想定し、第3、第4の触腕を昨日斬られてできた脇腹の穴からいつでも出せるよう準備をしておく。


 さあ、来いッ!!


 距離を詰められる――。そう考えていた義人であったが、木島の行動は予想に反し、両鎌で正面の攻撃を防ぎ、足は避けることなくまともに受け止め、その結果当然バランスを崩し、木島は床に倒れ込んだ。


「ヒッ!!」


 そして、ちょうど射線軸上にいた4号目掛けて触腕が迫る。座っていた為、当たることはない角度ではあったが、4号は両腕で防御する反応を見せ、隣に控えていた綾乃も4号を守るように覆い被さったのだ。


 あぶねッ!!


 後ろの彼女らを傷付けてしまうと伸ばしていた触腕を急停止させ、一瞬触腕を戻し掛けるも好機であることに気が付き、そのまま近くにいた髪を2つに縛る少女とハーフアップの少女の体に絡ませ、自由を奪う。そして掃除機のコードを巻き取るように2本の触腕を素早く引き戻し始めた。


「木島ァッ!!」


 4号は叫ぶ。それに反応し、倒れたまま一直線に2本の鎌を義人に向けて放った。


「——ッ!!」


 邪魔すんなッ!!


 迫る鎌を右脇腹の3本目で絡め捕り、動きを封じる。そしてようやく2人の少女を自分の背中側へと隠すことができた。


「ふぅ…………」


 息を吐き、呼吸を整える。


 まずは2人……。


 しかし、尚も動こうとする2本の鎌の所為で不快な金属音が室内に響き渡った。


「何やってんだよッ、木島ァッ!!」


 3人の女性の背中に隠れ、4号は叫ぶ。木島はゆっくりと立ち上がった。


「…………」


 木島の妙な行動。義人はある仮説に辿り着く。


 4号を守ったのか?


 なぜ? という疑問が新たに生まれる。仮にも4号は超人だ。再生能力もあるだろう。ではなぜ、全員庇うような動きを取るのか。


 あいつがそうさせてる……? まさか、怖いとか?


 超人戦の経験もなく、対人戦の経験もない。だからこそ、痛みを知らない。知らないからこそ怖い。もしくは、知っているからこそ恐れている。


 だったら4号に攻撃を集中させれば、もしかしたら……。


 この数的不利な状況を覆せるかもしれない。突破口が見え、俄然やる気が湧いてくる義人である。


 まずはこの2人を避難させないと……。


 義人は4本目を素早く伸ばし、その先を4号へと向けた。


「木島ァアアッ!!」


 再度叫ぶ4号に反応し、押し合いを続ける触腕を放棄した。自ら切り離し、4号の前に駆け寄ると、再び2本の鎌を展開する。


 やっぱりな……。


 仮説が確信へと変わった義人は木島の鎌を触腕で掴んだまま、掃き出し窓に向けて伸ばし、一気にその強化ガラスを叩き割った。


「あっ…………」


 4号の思わず漏れ出てしまった、なんとも間抜けな声だ。義人はガラスの破片で彼女らを傷付けないよう気を付けながら触腕を外に向かって伸ばし始める。


「おいッ! 逃げられるぞッ!! 早く何とかしろッ!!」


 指示を受け、木島が距離を詰めてきた。


 マズいッ!!


 外に出ていた2本の触腕が動きを止める。義人は最大で4本の触腕を生やすことができるが、同時に操作することができるのはどうしても2本が限界だった。木島に備え、腹に意識を集中させる。


 先手必勝ッ!!


 2本の触腕を拳のように操り、縦横無尽に殴り続けた。


「…………」


 対する木島も再び鎌を伸ばし、それを迎え撃つ。


 激突する両者の得物。


 このままじゃ埒が明かねぇなぁ……。


 鋭い金属音が起こる中、義人は考える。先程とは違い、少女らの後ろに隠れた4号を狙うのは不可能だ。彼女らを傷付けてしまう恐れがある。持久戦に持ち込むのも得策ではない可能性があるとすれば、取るべき手段はただの1つだけであった。


 室内の方がこっちにとっちゃ有利なんだけどなぁ……。


 相手の獲物が鎌である以上、振り下ろす、振り上げるといった動作が必要になる。木島の鎌は突くといった変則的な動きができるものの、狭い空間の所為で思うように鎌を動かせてはいない。しかし防御に徹しているのと義人も人質を抱えてしまった為、地形的有利が働いてはいなかった。むしろ動きに制限が掛けられてしまっている。


 仕方ない……。腹ぁ括れッ!! 行くぞッ!!


 義人は木島の触腕を叩き落とし、それから一気に後方へと跳躍した。向かう先は木島に有利な広大な庭である。


「いっ……!!」


 避け切れなかったガラスの破片が肉を裂き、背中や腕を突き刺してきた。なぜ相手に有利な場所へ移動するのかというと、外の隊員たちが現場へ突入できないのは人的要因だけではなく、人質の有無が関係しているからだ。その為、その問題さえ解決すれば数の力で2人を制圧できるだろうと判断したのである。


 当然、木島は追撃した。


 そりゃ、そう来るよなッ……!!


 迫る刃。義人は防ぐことよりも人質2人を優先した。


「ぐッ……!!」


 鎌は胸と腹に突き刺さり、肺と腸を貫き、引き裂いていく。引き抜かれないよう、義人は2本の触腕を素手で止める。


 飛びそうになる意識。震える足に力を籠め、人質2人に全神経を集中させた。


 触腕は塀を超え、地面にゆっくりと2人を下ろす。


 よしッ――!!


 2人を掴んでいた触腕が引き戻され、弧を描き、木島の両肩を襲う。遠心力も加わった金属の鞭にその体は耐え切れず、2本の腕はあっけなく千切れ、宙に垂れ下がっていた。


「木島ァッ!!」


 俺は強化したんだぞッ!! あいつ何勝手に負けてんだよッ!!


 4号の声はもう届かない。木島は膝を付き、頭を垂れた。その姿はまるで、斬首を待つ罪人のようだ。


 いま楽にしてやるよ……。


 右腕に硬化した触腕を巻き付け、1本の棍棒を作り上げる。そしてそれを思いっ切り振りかざし、木島の顔面へ叩き込んだ。


「————!!」


 芝生に無理やり叩き付けられ、もう顔だけではこれが誰なのか判別できない。再生能力がなければ死んでいただろう。義人は腕が再生しても抜け出せないよう触腕を全身に巻き付け塀の向こう側へ投げると、今度は触腕を切り離し、木島は拘束されたままコンクリートに打ち捨てられる。


「ああっ……!!」


 ううっ……。


 鎌を引き抜くと一気に再生が始まった。抜いた瞬間噴き出した血液もすぐに止まり、損傷した臓器も何事もなかったかのように元の形へと戻っていく。


「——はぁ……」


 あと3人……。


 もう4号は眼中にない。木島も彼もこの後どうなろうと知ったことではなかった。


 ああ、終わったな……。


 4号は悟る。


 あれは人じゃない……。鬼だ……。鬼がいるんだ……。


「ハハハッ。ハハハハハハハハッ…………」


 乾いた笑いが頬を揺らす。


 今からでも降参すれば許して貰えるかなぁ……。


 そんなことを考えていると、無意識の内に綾乃の右手を握っていた。


「こーすけくん?」


 彼女の桃色の唇から零れた甘美な囁き。その瞬間、冴島幸助の中で何かが弾けた。


 そうだ……。俺が綾乃を守らなくちゃ……。俺は彼氏なんだから……。俺がしっかりしなきゃダメじゃないか……!!


 体の震えが止まり、顔が怒りで歪んでいく。


 あいつは鬼だ。人じゃない。俺があいつを殺さなくちゃダメなんだ…………!!


 4号改め、冴島は立ち上がる。平穏を脅かす、鬼退治の始まりであった。

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