表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/37

第34話 ジュラシック・クライシス⑤

サクマ村の見張り台の上で、ネモは涼しい風を受けながら静かに立っていた。

 どこを見ているわけでもない。だが、全身が張っている。


「恐ろしい集中力ですな、ジェラルド殿」

「ええ。こうなった時のネモは頼りになります。今度はいち早くガルバースの襲撃を察知してくれるでしょう」


 隠匿の魔法を見破るため、全神経を研ぎ澄ませているのだろう。


「あれから三日か……。いつ来るかも分からん相手を待ち続けるのは、気が休まらんな」

「ええ。しかし、こういう時にこそ気も体も休めておかねばなりません。ザガンさん、村の人々への励ましもお忘れなく」


 そう言うとジェラルドは鶏の丸焼きに齧りつく。


「ああ、分かっている、しかし、食料が大量に確保できたのは幸運だったな」

「……幸運で済めばよいのですが」


 ジェラルドが低く言った。


「占領されていた場所から、ガルシアの兵が綺麗に引いていた。どうにも嫌な感じがしてならんのです」

「戦力を集中させている、ということですな」

「恐らくは」


 そこへ、駆け込む足音がした。


「ザガン村長! ジェラルドさん!」


 グリムだ。


「どうした」

「昨日、ガルシアに偵察へ出した者が戻りました。それで報告を受けたんですが……」


 グリムは珍しく言い淀んだ。


「申せ」

「村が……もぬけの殻だったそうです」

「なに?」

「誰もいなかったらしいです。残っていたのは、大きな恐竜の足跡だけで……」

「やはりか……気狂いめ」

「え……」


 ザガンは眉を深く寄せた。


「あやつ、恐らく……村のほぼ全員を下僕に変えた」

「……まさか、そんな馬鹿なこと」

「グリム、今までいったい何を見てきた。もうすでにあいつは気狂い、何をしてもおかしくはない」


 グリムは言葉を失う。


 ジェラルドが顎髭を撫でながら息を吐いた。


「畑にも鶏舎にも誰もいない。それで説明はつきますな」

「……」


 グリムは拳を握ったまま俯いた。


「……武器の手入れをまたしてきます」

「頼む」


 グリムが去る。


「……ジェラルド」


 今度はシオンだった。

 ブラドを連れて、小走りにやってくる。


「どうした?」

「……まだかな……」


 状況が気になっているのだろう。

 今回の作戦の鍵だ。当然だった。


「ガルシア村は空だったそうだ。恐らく隠匿の魔法で、すでに移動を始めている。そう遠くはないだろう。……今日にでも来るかもしれん」

「来たよっ! 南! 三キロメートル! 前より大群! 走ってくる!」


 見張り台の上から、ネモの怒号が飛ぶ。


「やっぱりな……シオン」

「……わかってる……ブラドっ!」

「ウォウッ!」


 シオンはブラドの背に飛び乗り、見張り台へ駆け上がる。

 入れ替わるように、ネモがひらりと広場へ降りてきた。


「ザガンさん」

「ああ」


 ザガンはそばに置いていたドラを、思い切り叩いた。


 空気を裂くような音が村中へ響き渡る。

 一瞬で、村の空気が戦いの物へと変わる。


「方向は南! 女子供は避難場所へ! 戦士は前線へ! 他の男どもは弓を持って所定の場所へつけぇっ!」


 村が一斉に動き出す。


 ネモとジェラルドは、逃げる女子供とは逆方向へ駆け出し、村の外へ出る。


 そこには、すでにグリムがいた。


「お二人とも! 確認しました! やはりガルバースは中央奥!」

「そうか。やっぱり分かりやすくて助かるぜ」


 恐竜の大群が迫る。地響きが身体を揺らす。

 否応なく、戦士たちの身体が強張った。


 村の看板がかたかたと鳴る。


 地の震えが足裏にまで届く。


 そして大群の中央、一際大きな二足恐竜に跨る男――ガルバース。


「サクマ村の堕落者ドもォおおおおおおっ! 今度こそ、苦しめて苦しめて苦しめて、地獄に落としてやるガらなァアアアァッ!」


 人の喉から出たとは思えぬ怒号。

 真っ赤に充血した眼。げっそりとこけた頬。

 もはや炭の棺に、自身の命まで捧げてしまっているのだろう。


「行くぞ、ネモ」

「OK!」


 二人は横に並び、ネモは左手を、ジェラルドは右手を構える。


 先にジェラルドが詠唱を始めた。


 ――まるで白露(はくろ)の冬の白き(さま)白銀吐息(はくぎんといき)で踏み入るを拒み、()りては全てを()(はい)す、高く反り立つ険しき銀嶺(ぎんれい)――


 それをネモが継ぐ。


 ――踏み入る愚かな気高き蛮勇、寒気凛冽(かんきりつれつ)が呑み込んで、冷徹無常に、気高き不遜(ふそん)()て押し返す――


 そして二人が同時に雄叫ぶ。


 ――万魔退陣(ばんまたいじん)冬将軍(ふゆしょうぐん)!!――


 大地が唸りを上げながら盛り上がり凍りつく。

 土を氷が覆い、瞬く間に巨大な壁となる。

 左右へ割れた恐竜の群れの中央にだけ、細く長い一本道が残された。


 ガルバースへ届くための、ただ一本の突撃路だ。


 その道へ、風のように黒い影が滑り込む。


 シオンだ。


「……今度は……勝つ……」


 静かな呟きとともに、ブラドは一直線に駆けた。


 闘いの火蓋が切って落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ