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第4話 涙探しの迷い魔女−5

「おかえり、ジェラルド、どうだった?」

宿屋に戻ったジェラルドを待っていたのは、上半身裸で短パンのネモだった。

挿絵(By みてみん)

坐禅を組みベッドに座り込んでいる。

「……。元気になったみたいだな」

「うん。でも寝てばかりは嫌でさ、精神魔法の修行してた」

「ははっ、お前らしい。――で、どうだったと言われれば、聞き込みで色々わかったぞ」

「ほうほう」

「メグミさんが言ってた迎賓館の事故、覚えてるか?」

「うん。あの夜、人が突然倒れまくったってやつでしょ?」

「あれはたぶん、彼女の魔法が顕現暴発した結果だと思う」

「……顕現暴発、不意に魔法が成立したせいで暴走する奴だね」

「ああそうだ、事故の連中の症状が、お前が食らったアレと同じだった。対処に当たった職員から聞けた」

「でも、なんで……夜に迎賓館で?」

「そこはまだわからん。迎賓館は完全閉鎖、警戒魔法も張ってある。俺じゃ忍び込みづらい」

ネモが顔を上げる。

「じゃあ明日は……」

「潜入を、お前に任せたい」

「わかった」

「――もう一つ。身元だ。名前が割れた」

「すごいじゃん」

「この近所に住んでたらしい。美人で目立ってた上に、事件もあったから知ってる奴がいた。シオン・エヴァージェイル。結構いいとこのお嬢さんだったみてえだ」

「……“だった”? 事件?」

ジェラルドは少し間を置く。

「嫌な話だ。三年前、親父さんが強盗に殺された。その時に――本人も行方不明になったらしい、犯人は捕まっていないそうだ」

「え……」

「俺が掘れたのはそこまでだ。細かい素性も幾つか拾った」

ジェラルドはメモを畳み、ネモの前に置いた。

「父親は魔道具商で裕福。母親とは離婚して父子家庭、親父は料理上手で周りによく振る舞ってた、とかとか、まあ他愛のないことだがざっくり頭に入れといてくれ」

「分かった」

「明日、迎賓館で“シオン”に繋がる痕跡を探してくれ。俺はこの三年の足跡を調べる」

「まかせて」

「……多少、思い当たる節がある」

ジェラルドは顎髭を弄り、窓の外の夜灯りを見た。

その目は、妙に悲しげだった。


翌朝、ネモは迎賓館前で館をつぶさに観察する。

「確かに警戒魔法が厳重、表でこれだけあるなら内部にもういくつか罠があってもおかしくない……」

ネモは自身の胸に手を当て詠唱を始める。

【宵闇の影の如く、霧雨に浮かぶ涙の如く、泡沫些末の霧霞】

ネモの存在感がゆるりと消えていく。

見えない訳ではない、しかし道端に転がる石の如くに彼に対する世界の注意力が広く薄くなる。

自身の存在を隠匿する魔法だ。

「これでよしっと」

そう言うとネモは腰を落とし、一足飛びにその黒い壁を飛び越えていった。

警戒魔法を構成する結界はゆるりと揺らめくがそのまま静かに元に戻った。


「ふむ、ここだな」

ジェラルドはビッグピース外れの色街の外れにある木造の集合住宅の前で佇んでいた。

とても古く老朽化しており、時折風で軋んでいる

「さて何処から手を付けるか……」

ジェラルドが呟いた瞬間。

「ひぃーっ ひぇぇええっ!」

アパートの一階から半裸の女性が飛び出してくる。

その頬には痣があり半狂乱で走ってきてジェラルドに掴みかかる。

顔立ちは美人であったことは伺える、しかしその目は虚ろ、頬はこけ、まるで亡者の如く。

「……どうしました御婦人?」

「た……助け……助けてよぉっ! そしたらそしたら色々ヤッてヤッからさほら、速くぅ!」

「ふぅ、まずは事情を……」

そのジェラルドの言葉を遮る野太い絶叫。

「てめえっ、人の女に手ぇ出してんじゃねえぞぉっ」

そこには角材を持った、目の血走った男が一人。

「ネオンっ! いい加減殺してやるぜっ」

「はやくしろ私を守れこの獅子男ぉっ」

ジェラルドはハッとする。

「ネオンっ!? 貴方がネオン・エヴァージェイルさん?」

「はぁっ?なんであたしの名前っ!?」

「死ねやぁあっ!」

問答が終わるの前に男の角材がジェラルドの頭にぶち当たる。

「……ふーむ」

一瞬考え込むジェラルド。

ゆっくりと男に向き直る。

「はっ、やんのかてめぇっ!」

圧倒的体躯、殴りつけても効いた様子も無し、にも関わらず男は怯む気配すらない。

「薬物か……」

ジェラルドはそう呟くと男に軽く当身をして気絶させ女に向き直る。

「あ……ありがとう、あ、あんた強いのね……」

ジェラルドは深々と礼をしながら女に語りかける。

「シオン・エヴァージェイルさんですね、私、ジェラルド・ハンマーロックと申します、貴方を探しておりました、少しお話を伺いたい」


「うーん? ……なんにもない?」

迎賓館四階で、ネモは散歩でもするように歩いていた。

一階は受付と市民用ホール、二階は事務所、三階は通常の迎賓フロア。目新しいものは薄いと踏んで四階を探っている。

「まじで何もない……。しかも、五階へ上がる手段がない」

不思議なことに、一階から続く階段は四階で途切れている。上へ繋がる導線が、最初から“用意されていない”。

「面倒くさいな……外から行っちゃうか」

ネモは窓から身を乗り出し、猿のように滑らかに五階の窓縁へ手を掛けた。

「よいしょっと」

窓を凍らせ、ひびを入れて小さく割る。内鍵を外し、身体を滑り込ませた。

「うわ……」

豪奢な装飾。漂う麝香の香り。真っ赤に塗られ、番号の書かれた部屋が並ぶ。

「ホテル……かな……」

半開きの扉を覗く。用途の知れる道具が散らばり、過激な物も混じる。

「……そういうとこね……でもここ、県政の迎賓館だろ……」

今迄の様々な情報が頭の中で組み上がっていく。

バキバキと何かが砕ける音。

「どいつもこいつも……」

ネモは頑丈そうな鉄のドアノブを握り砕きそう呟くと、六階へ向かった。


「ここは……」

今度は人の気配がする。

右フロアは先程と同じ様な造り、左は妙な鉄扉。

鉄扉の方からはうめき声や泣き声がかすかに聴こえる。

「ここからか……」

うめき声を追ってたどり着いたそこ、広い下宿の様な場所、先程までとはうってかわって簡素な造り。

そこには木製のベッドの上に寝かされた、何十人もの少年少女たち。

うめき声や泣き声をあげ、中には鎖に繋がれているものもいる。

「…………」

ネモは何も喋らない、姿を潜め周りを見渡す。

その部屋の奥に何人かの県政の制服を着た人間が何人かいる。

ネモはそちらに静かに近づく。


「やってらんないわ、なんで私達上級政務官がこんなとこで泊まり込みして商品の面倒見なきゃいけないのよっ!」

狐目の女性が機嫌悪そうに書類をまとめている。

「しょうがねえだろ、一般の奴らはここのこと知らねえし、担当は病院送りなんだからよっ!」

「わかってるけどさっ! こんな奴らもう処分して新品入荷しちゃえばいいじゃない」

「聖都に治せそうな奴がいるらしい、ウチのボスがつてでこっそり連れてくるまで待っててくれだとよ」

「いつまでっ!」

「知らねぇよっ!」


その会話に腸が煮えくり返りそうなネモ、しかし静かに彼等のそばに佇む。

二人はネモに見向きもしない。

「……気づかれないみたいだね、たぶん大したことないなコイツラ」

自身の隠匿魔法に気づかれないことを確認したネモは静かにその[六階]の捜索を始めた。

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